20年前の世界
僕がインターネットに初めて繋がったのは22年前の1997年。この年は経営難を続けて潰れる寸前のAppleにスティーブ・ジョブズが復帰した年、翌年初代iMacが登場するという、まだ世の中にiPodもiPhoneもiPadもなかった時代。ネットに入るにもWifiではなくモデムをカタカタ言わせながら電話回線を使ってようやくアクセス。回線スピードは28kbps、パソコンの処理速度はようやく300MHz、メモリは32MByte、HDD容量は1Gbyteという今からすればとてつもなくのんびりした環境で「ネットサーフィン」という言葉が既にあったと思うけど、アクセスしたページが表示されるまでとても時間がかかって、とてもサーフィンなんて言える環境じゃなかった。
それでも当時は「世界と繋がる」それだけで大きな意味があった。ブラウザ「ネットスケープナビゲーター」を使ってhttp://www....と打ち込む。www = World Wide Web 「世界を繋ぐ蜘蛛の巣」。家の小さな部屋から世界につながる広大なインターネットに入るこの儀式、その意味を感じながら打ち込む「www」の文字。当時はこの儀式だけで満足していたかもしれない。そしてしばらくするとそこには飛行機で10何時間もかけなければいけない世界、あるいはとても行けない世界が広がっている(そんな気になる)。僕はこうして夜な夜なヨーロッパや世界のあちこちの街や美術館、博物館に出かけていた。
ホームページを作ろう
パソコンオタクではなかった僕が、周りがまだパソコンをほとんど持っていない時代にパソコンを買いインターネットに入り始めた理由は、ホームページを作るためだった。ヨーロッパが好きで1991年〜2001年の間は年に一度ヨーロッパに出かけていた。このヨーロッパ旅行の写真と記憶を残しておくために、魅力的なヨーロッパを紹介するためにホームページを作ろうと思ったからだった。
当時はまだデジカメもなく、撮りためた写真は全てフィルム。それらをフィルムスキャナーでデジタル化するところからスタート。当時の機器でのフィルムスキャンはこれまたのんびりした作業で、数千枚の写真をデジタル化するのは気が遠くなるような作業だった。
そしてサイトマップを考え、デザインコンセプトを練って、独学でホームページ作成方法を学んで、スキャンした写真と記憶と本や現地資料を使って少しずつ丁寧にページを作って行きました。普通に会社勤めをしながら夜中にホームページ作りを進めて、1998年に「cafe mare nostrum」を公開した。
単なる旅行記ではなく、街や国の歴史や文化、芸術、建築、著名人を絡めてその街の魅力をまとめて、当時の回線速度が遅い環境ではやや無理があった写真を中心にした構成。今でいうブログのコーナーも作ったり。今でこそこの手のサイトはゴマンとあるけれど当時まだ少なかったので「cafe mare nostrum」は一般の雑誌や本で取り上げられた。また知らない人とのやりとりも楽しかった。旅行相談、取り上げた街や建築に関する質問が来たり、「彼女へのお土産をヨーロッパで買いたい」と相談のメールなど。迷惑メールやネット犯罪がまだほとんどなかった頃、インターネットの古き良き時代だった。
世界の変化
やがてコンピュータ技術が進化して、回線がブロードバンド化するに従って、写真中心の「cafe mare nostrum」も時間かからずに見られるようになり、それと同時にインターネットの世界がはるかに広がって行った。いろいろな質の高いウェブサイトが立ち上がり、企業のホームページも当たり前になって行った。そんな中知らない人からの楽しいメールはその10倍以上のスパムメールにまみれるようになってしまい、いつの間にかインターネットはのどかな平和な世界ではなくなった。世の中、個人のホームページは「ブログ」に姿を変え、沢山の情報と新しいサービスがインターネット世界に溢れるようになった。
iPhoneが登場して、誰もが高画質カメラがついたスマホを持つようになり、情報発信もツイッターやフェイスブック、インスタグラムへと変化。有用なサイトが増えた反面、危険なサイトも大きく広がり、世の中とても便利になったけど、危険も増えた。瞬く間にインターネットの世界は進化して行った。
インターネットの世界はまだまだ進化、変貌していく。
僕はホームページ「cafe mare nostrum」を10年ほど更新し続け、その間に結婚をして子供が生まれた。仕事も子育ても忙しくなって以前のように旅行も行けなくなった頃、ホームページの更新もほぼ止まっていました。それでもcafe mare nostrumはそのままネット上にあり続け、時々自分の辞書がわりに使っていたのですが、これも時代の流れですね、昨年にサイトを置いていたプロバイダが個人ホームページサービスを打ち切ることになりcafe mare nostrumはインターネットからなくなってしまいました。
懐古と復興
この20年でインターネットの世界は大きく変わり、世の中に溢れるデバイスも恐ろしいスピードで進化していった。でも僕が旅行した街や文化は百年〜二千年の歴史の中にあるからこの10年、20年という時間はなんともなく存在している。
cafe mare nostrumを復活させたいと思い、このブログをスタートします。昔のものをそのまま復活させるのではなく、そのエッセンスを蘇らせる。そしていつかこれを子供達が見て、何かを感じ取ってくれるように。
P.S.
ちなみに「cafe mare nostrum」の由来。
先に「mare nostrum」はラテン語で、直訳は「我らの海」。
2000年前地中海を取り囲む大帝国を築き、そこに一大文明圏を作り上げたローマ人が、自分たちの国土の「内海」という意味で地中海のことを「mare nostrum」と呼んでいた。僕は古代ローマと地中海がとても好きなので、この言葉を名前にした。
そして「たくさんの人が来て楽しんでくれたらいいな」という願いを込めて「cafe」を頭につけた。1997年のこと。今が2019年なので、もう22年も前のことだ。。。