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旅行の記憶と何気ない日常を

ホーエンシュバンガウ小話4 〜 ホテルミュラー

初めて旅したドイツの、最初の滞在地がここホーエンシュバンガウでした。 

フュッセンからバスに乗り、シュバンガウの平原に出た時、窓越しに見えたはじめてノイシュバンシュタインに興奮冷めやらず、ホーエンシュバンガウの村に着いてバスを降りてすぐにでも城に上がりたい気持ちを抑えて、まず最初にやるべきことがありました。それはその日の宿をみつけ、肩に食い込むやたら重く感じるバックパックを下ろすことでした。

 

村はとても小さく、わずか数百mほどのメインストリートにもそんなにたくさん建物はありません。今でこそ「Zimmer」が部屋を意味する単語だとわかるのだけど、その当時、ドイツ語といえば「グーテンターク」くらいしか知らなかったので、いったいどこがペンションでどこが民家なのかすら、さっぱりわからなかったし、おみやげ物屋との区別すら怪しいものでした。

しばらく歩き回ったけど安宿が見つからず、いや、見分けられず、「これはどこをどう見てもホテルだ」という建物に入ってみた、それがホテル・ミュラーでした。

3階+屋根裏建てで淡い黄色の壁に白い縁取りの窓。このあたりでは一番いい場所に建ち、おそらく世の中で見かけるノイシュバンシュタイン城の写真のうち80%には城と一緒に写っていると思われる。おしとやかで高級感がありながら、気取らない雰囲気のホテルです。

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僕には分不相応だったのだけど、軋む体で、すがる思いで中に入り、フロントの女性に空き部屋があるか、いくらで泊まれるのかを聞いたところ、部屋はあるがやはりやや高めの値段だったので、この時は「もうちょっとほかを探してみます」と一旦ホテルを出た。

でもホテルを出た瞬間に、背中の荷物が肩に食い込み、足も「足かせ」がついたように重くなっていて、体がもうこれ以上の宿探しを拒絶している。これはもうだめだと、回れ右して再びホテルのフロントへと再突入したのでした。

さっきの女性は、「随分早かったのね」とにこやかに迎えてくれた。僕の旅のスタイルを理解してくれたのか、さっき教えてくれたのとは別の部屋、部屋の外だけど専用のバストイレのあるちょっと安い部屋を用意してくれていたのです。

案内してもらい、きれいな部屋にとても気に入ったのだけど、ひとつだけ不満だったのは、ノイシュバンシュタインが窓に顔を押し付けないと見えなかったことでした。でもこの際そこは目をつむり、このホテル・ミュラーに2泊することにしました。

ちょっとした質問にもはちきれんばかりの笑顔で答えてくれ、細かな気配りが行き届いていたスタッフのなんて気持ちの良いことか。二日目に部屋に帰ってきたときには新鮮な果物がテーブルに置かれたサービスも、フルーツ選びやさりげない置き方、こんなことひとつとっても行き届いている。

お陰でとても気持ちよく過ごすことができたのです。僕はホーエンシュバンガウで「ノイシュバンシュタイン城だけ見ることが出来ればいい」とやってきたのだけど、城だけでなく、ホーエンシュバンガウのその自然にとりこになり、さらにホテル・ミュラーにも虜になってしまった。

 

その後何度かホーエンシュバンガウに行ってホテル・ミューラーの前を通ると、相変わらず笑顔を絶やさないスタッフの姿が見えました。

 

ドイツ語は喋れないけど、宿探しは素早くできるようになった。ホーエンシュバンガウにも少し脇道にそれると小さな宿がいくつもある。あれ以来、ホテル・ミュラーには泊まってない。

この後かれこれ10年近くヨーロッパを旅をして、さらにその後もシゴトも含め高級、格安いろいろなホテルに泊まったけれど、このホテル・ミュラーに勝るところは未だありません。僕のなかでホテルミュラーは最高のホテル。それを作り上げているのは、建物や立地や豪華なサービスではなく、ホテルスタッフの笑顔と気配り。仕事もホテルも何もかもその質を決めるのはそこにいる人の質。それを強く実感したホテルミュラーでの滞在でした。

次にホーエンシュバンガウに行く時は、久しぶりにホテル・ミュラーに泊まろう。

 

 

www.mueller-hohenschwangau.de

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