cafe mare nostrum

旅行の記憶と何気ない日常を

BOL小話〜 雲中の雷鳴

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クライネシャイデックで山を眺めるのを諦めて歩き始めて、しばらくすると、雨がいっそう激しくなってきた。霧に巻かれ多様に視界も悪く、まるで雲の中を行くようだ。時々谷に響き渡る雷の音は僕の背筋をピンと伸ばしてくれる。元々雷は嫌いじゃないし、稲妻の一瞬の輝きやその大音響はむしろ好きなくらい。でも雲の中で聞く雷はとても迫力があり、ちょっとした恐怖を感じます。ここで雷に打たれるとしたら、横からくるのかな?

朝の快晴に惑わされ、勢い余って山へ雨具を持たずに出てしまったので、今はただ濡れるしかない。クライネシャイデックで雨が小降りになったタイミングで出発。登山電車に乗っても良かったのだけど、せっかくここまで来て、もう少し足でアルプスを楽しもうと歩き始めたのだけど、この土砂降りの雨はなんだか惨めな雰囲気を増長するのでした。

登山電車WABの線路わきを歩き続けます。時々横を電車が通り過ぎていく。

途中で工事用の歩道橋がWABの線路にかかっているのを見つけ、この下で雨宿りすることにした。ただ下に入ったのはいいけれど、工事用の橋はとても雑な作りでやたら雨漏りする。でも一応雨はしのげるので、ここで雨が小降りになるまでしばらく過ごすことに。リュックをおろし雨漏りをさけられる所に腰を下ろす。視界は少し良くなってきたけど、雲は相変わらず厚く、空と山を遮っていました。

ユングフラウがあるはずの方向を眺めて天気を恨み過ごしていると、背中ではWABが何本も過ぎ、前のハイキングコースではちゃんと「雨具」を、僕が忘れてきた雨具を着込んだハイカーが哀れみのまなざしをこっちに向けながら通り過ぎていく。実際、全身濡れネズミの姿は同情に値する姿だったろう・・。そして時々ではあるけどまだ雷が鳴る。。。。

 
 どれほどの時間そこで過ごしたのか、雨はだいぶ小降りになった。とても晴れそうにはないけど空も少し明るくなってきた。気を取り直し、出発する。

歩き始めてからしばらく、山のあるはずの空を見上げると、所々薄くなった雲間からかすかに雪の着いた山肌が見えるようになった。谷間を挟んで見えるそれは山というよりとてつもなく大きな壁に見えた。天気が良かったらどんなに素晴らしい景色が見られただろう、と思うと辛くなるので考えないことにしよう。でも実際の所、雲の合間から見え隠れする山肌と言うのもかなり荘厳な景色だったと思う。


 しばらくすると前を歩いていたハイカー達が山の方を見上げて立ち止まっている。何だろう?と雲間から見える山肌を見た瞬間だった。その山肌、遙か上の方に着いた雪がパーンとはじけたと思うと壁のような山の斜面で巨大な雪崩が起きた。そして少し遅れてゴー!という大音響が谷中に響いた。

雷の音だ。

さっきまで雷だと思っていた音はこの、山に着いた雪がはじけて雪崩となって落ちてゆくときの音だったのだ。雲の間から見え隠れするそれは、スローモーションを見る様にゆっくりと雪がはじけ、雲をすり抜けるように広がりながら下へ落ちていった。谷の対岸、遠くで眺めた自然の演出は言葉では表現できないほど感動的な光景で、雨もずぶぬれも忘れて立ち止まり、雲間から見える雪崩の起きたばかりの山肌を僕はずーっと眺めていたのでした。


出会った光景に圧倒されてました。

クライネシャイデックから登山電車に乗ってしまっていたら、この体験はできなかった、

雷の音が大きな雪崩の音だったなんて知らないで一生過ごすことになっただろう。

きっと天気が良かったら同じ様に雪がはじけてもあれほど神秘的には感じられなかっただろう・・と考えながら残りの道のりを歩いて行きました。

ヴェンゲンあたりまで、U字谷上のへりのあたりまでくると、山は相変わらず雲に覆われていたのだけど、地面には雲間から太陽の光が射し込んでいました。

 

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 ラウターブルンネンに降りてホテルに帰るとあっという間に眠りにつき、長~い1日はそこで終わったのでした。

 

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