2000年前に建てられたローマの公衆浴場の遺跡に隣接し500年前に建てられたクリュニー修道院長の宿舎という、そんなカルチェ・ラタンらしい場所。それが現在のクリュニー美術館(Musée de Cluny)。正式には国立中世美術館(Musée national du Moyen âge)と言って、古代彫刻と中世の美術品が収蔵される美術館でパリではちょっとした穴場的存在です。
ここの目玉はなんと言っても、「一角獣と貴婦人」のタピストリの連作。
正確な制作年や制作場所、作者は不明ながら、15世紀末にフランドル(現在のベルギーあたり)で作られ、掲げられる旗の紋章からフランスの王シャルル7世の側近が作らせたものではないかと言われています。
ウールと絹で織られたというこの一連の作品、鮮やかな朱色を背景にウサギや鳥などの小動物と植物、そのなかに小島が浮かぶように花畑。そこで繰り広げられるのは貴婦人と一角獣、そしてライオンたちが表現する「五感」です。
この連作は6枚。それぞれ想像していたより大きい。館内ではひと並びに質素にさりげなく展示されています。
「五感」なのだけど、五感から外れた最後の一枚。このテーマは謎とされるのだけど、「まさに人間」という題名がつけられていますのでお楽しみに。
鏡で表現される「La Vue /視覚」(左)
貴婦人がユニコーンの角に触れる「Le Toucher 触覚」(右)
花で表現される「L'Odorat / 嗅覚」(左)
パイプオルガンを聴く「L'Ouie / 聴覚」(右)
飴による「Le Gout / 味覚」
そして最後の一枚
A mon seul Desir 我が唯一の欲望
なぜ五感なのか、なぜユニコーンなのか、五感でつづられたタピストリになぜ、ひとつだけ「欲望」なのか。6枚目の作品は、色々な解釈があるようなのだけど本当のことはわからない。わからないから、余計に「貴婦人と一角獣」の連作を謎めいたものにして、この連作の魅力を高めている。
僕がこの中でもっとも惹かれるのは「視覚」。
貴婦人が手鏡で一角獣の姿を映してみている。一角獣の表情といい、その構図といい、場面設定といい、なんとも引き込まれる一枚でした。
P.S. 僕がパリで貴婦人と一角獣を見たのが1997年頃。その16年後の2013年に東京でクリュニーのタピストリに感動の再会(?)を果たすことになりました。こういう時にいつも思うのは「日本は恵まれている」ということと、「今、クリュニーに行ってもこのタピストリは見ることができないというのはどうなんだろう」ということ。これが見たくてパリへ行く人もいるだろうに。。。