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ルーブル美術館7 3つの至宝 ミロのヴィーナス

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ルーブルの至宝 3つ目は「ミロのヴィーナス(La Vénus de Milo)」。

アフロディーテ(Aphrodite)」がこの彫刻のルーブルにおける正式名です。「アフロディーテ」はギリシア神話の美を司る女神のことで、ローマではラテン語でVenus(ウェヌス)とよばれました。そしてラテン語のVenusの英語読みが「ヴィーナス」です。

サモトラケ島で見つかった勝利の女神が「サモトラケのニケ」と呼ばれるように、「ミロのヴィーナス」はミロス島で発見されました。しかも「サモトラケのニケ」と同じくばらばらな状態で。

ロス島サントリー二島やミコノス島などエーゲ海の中でも屈指の美しい島々が集うキクラデス諸島にあります。1820年に畑の中から農夫が偶然発見。大事に保管していたのだけど、当時ギリシアを支配していたオスマントルコに没収されてしまいます。後にそれをフランス大使リヴィエール侯爵が買いとり、ルイ18世に献上し、そのままルーブルが管理することとなった。

 

実は本当はこれが「アフロディテ(美の女神)」の像なのかはハッキリしていません。

アフロディテ」と刻まれていることもなく、いろいろな状況からおそらく「アフロディテ」だろうとされているけど推定でしかありません。ミロス島で崇拝された神である可能性も相当にあるというような状況で本当はこの像は何なのか誰なのかは誰にもわからない。

でも名前の論争はさておき、この彫像が誰であったとしても、この「アフロディテ」が女性美を表現した完璧な作品であることには変わりありません。

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いつ誰が作ったか

こちらも作者の名前が刻まれていることもなく、モナリザのように、「注文した」記録があるわけでもないので推定の域は出ない。

静けさをたたえた顔の様子、7等身半のプロポーション、衣の襞の様子は古典期といわれる紀元前5世紀の特徴であり、その作品のクオリティーの高さから作者はパルテノンの天才彫刻家フェイディアスではないかと囁かれた時期もある。

でも、肉体再現の特徴からもう少し時代を降った紀元前4世紀の彫刻家によるものと言われたり、さらに体をねじった螺旋が作り出すあふれるような生命感、髪型の様子はヘレニズム期(紀元前3-1世紀)に生まれた革新的な特徴といわれており、どうやら制作年代は紀元前1世紀ころだろうということで落ち着くことになったといいます。

でも天才フェイディアスであれば、革新的表現法の先取りもあったかもしれないし、そもそも後におこった革新はここから始まったかも、なんて想像を巡らせると楽しくなってくる。

僕個人フェイディアスの名前を聞くと、ワクワクしてくるのだけど、こういう話は答えがなくて永遠につづいていく訳で、これからも「いつだれが」の論争は静かに続いていくのでしょう。いろいろなところで書いているのですが、こういうのは答えが出ないままというのがいいんです。

 

国家の間に防弾ガラスと空調に守られた「モナリザ」と、ダリュ階段の特設踊り場に大々的に展示される「サモトラケのニケ」といったほかの「3大至宝」に比べて、「ミロのヴィーナス」はやや大人しめな展示。でもそれは、その作品自体の性格にあった、展示といえる。

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ルーブルで地上階シュリー翼の角、古代ギリシアと古代イタリア・エトルリア展示のちょうど境目あたりにミロのヴィーナスはいます。モナリザほど人は群がっていないし、サモトラケのニケのようなド派手さはないのだけど、この、「佇む姿を静かに愛でる」というのがミロのヴィーナスの展示のしかた、鑑賞のスタイルなのかもしれません。

 

 

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3大至宝の中で唯一、ぐるっと1周ながめることができるのもミロのヴィーナスの特徴です。素晴らしい彫刻とはどこからどうみても素晴らしいのがわかります。

すぐれた彫刻を見るにつけ、単純に感性にぐさっとくる表現力もさることながら、彫刻家の3次元空間認識とその再現能力ってすごいなと痛感させられるのです。

 

 

ルーブルに行くと必ず行くのが「モナリザ」と「サモトラケのニケ」。このふたつの圧倒的な存在感ったら凄まじいものです。そこにそっと寄り添いながら、自身もルーブル(=人類)の3大至宝のひとつである「ミロのヴィーナス」の存在はルーブルの価値をより一層高めることになりました。サモトラケのニケ同様、ばらばらで発見された大理石の塊の価値を見抜いた、当時のフランス人の感性には感心するばかり。

 

ルーブル(=人類)の至宝のうちふたつが作者すらわからない古代ギリシアの彫刻であることは、あらためて古代ギリシアという時代がどれほど輝かしいものだったのかを想像してしまいます。

そしてレオナルドのモナリザ古代ギリシアの傑作に並び、ルーブルの至宝を形成しているのです。古代ギリシアルネサンスの象徴、これらが人類の至宝を構成する。とても納得であり、これらの作品が大好きな僕にとっては誇らしくもあるのです。

 

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