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モン・サン・ミシェル 3 大修道院教会

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ノルマンディの街アブランシュ(Avranches)の大司教オヴェールの夢に、大天使ミカエルが現れこう言いました。

”かの岩山に我が名を讃える聖堂を建立せよ”

 

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最初オヴェールは信じられずに夢に従わずにいると、大天使ミカエルは3度オヴェールの夢に現れました。そしてその指先から放たれた光でオヴェールの頭を貫きました。

その夢の後オヴェールは大天使ミカエルの啓示に従って、古くから土着の信仰の厚かった海に浮かぶ岩山、ケルト人が古くから”神々の住む岩”と呼んでいた場所にモンサンミシェルの最初の礼拝堂を建立したのでした。8世紀初頭の出来事。

僕は行ったことないのですが、アブランシュの聖堂にはオヴェールのものとされる、大天使ミカエルの光によって貫かれた「穴のあいた頭蓋骨」が祀られているそうです。

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*夢に現れた大天使ミカエルとオヴェールのレリーフ修道院内) 

天の軍勢を率いて闇と戦う大天使ミカエルは昔から厚く信仰崇拝されてきました。ちなみに「サン・ミッシェル(Saint Michel)」という教会はこのミカエルを祀るものだし、人の名前で”マイケル”、”ミッシェル”もこの大天使に由来される名前です。

 

8世紀はじめに最初の礼拝堂がこの岩山に建てられてから、1000年をかけて現在のような大修道院が形作られました。大修道院は3層で構成されており、創建当初の4つの礼拝堂は現在大聖堂の地下礼拝堂として残っています。その中心に大きく聳えるのが「大修道院教会」です。

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修道院教会

司教オヴェールが大天使ミカエルのお告げにしたがってこの場所に教会を建てたのが708年のこと。その後966年にベネディクト派修道士がモン・サン・ミシェルに入ります。ベネディクト派は聖地エルサレム奪回を目指す「神の戦士」の修道士集団。そのことが徐々に有名になり巡礼者がモン・サン・ミシェル集まりだしたのが11世紀。このころに大修道院教会の建設が始まりました。

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西暦1000年から16世紀はじめまで休みなく続いた建設工事は修道士たちによるものでした。完成した修道院を中世の人々は「空のエルサレム」と呼んだと言います。

このモン・サン・ミシェルの大修道院教会の大きな特徴が、いろいろな建築様式が混在していること。建設を始めて以降も何度も部分的な崩壊と再建を繰り返したため、この聖堂ではいろいろな様式を見ることができます。

例えば、当初聖堂は丸天井のラテン十字のロマネスク様式で建設されました。しかし、完成からわずか20年で身廊北側が崩れてしまい12世紀に再建されました。そのため身廊の南側は11世紀のロマネスク、北側は12世紀のロマネスクと造りが少し違います。

15世紀には内陣が崩れて再建されます。このときゴシック様式で立て替えられました。このロマネスクからゴシックへの様式の変化はかなり大きな違いなのですが、外観も内部も意外と違和感なくまとまっているのが不思議です。

また、18世紀には火災で身廊も崩れてしまった。なので現在の身廊は創建当時の約半分の長さとなっているそうです。

 

■建築様式が混在する外観

下の写真、鐘楼から左はロマネスク様式で右はゴシック様式。15世紀に崩れて建て替えられたという右側と10世紀からある左側の様式の違いがよくわかると思います。

中央の鐘楼は基本的にはロマネスク様式だけど、てっぺんの塔の部分は19世紀に加えられたネオ・ゴシック様式。いろいろな様式をうまく混在・融合させた独特の不思議な姿が人々を惹きつけるモン・サン・ミシェル全体の雰囲気を作り上げているのかもしれません。

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■ロマネスク様式の身廊

典型的な丸天井とアーチ型の窓、ぼてっとした柱が特徴です。

 

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*日本人ツアー客に囲まれてしまった。。。

 

 

ゴシック様式の後陣

再建されたゴシックの内陣の主祭壇。

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複雑な柱と天井の構成、尖塔アーチの構成、たくさんの窓がゴシック様式の特徴です。

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これもゴシック様式でよく見られる「雨どい」。雨水を吐き出す口は魔物の形をしています。

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 ■ネオクラシック様式のファサードとネオゴシック様式の尖塔

18世紀の火災で崩れて短くなったロマネスクの身廊。正面ファサード1780年に短い身廊に再建されたネオ・クラシック様式。昔身廊だった場所は「西側のテラス(Terrasse du l'ouest)」となって、いまでは観光客にとっての展望広場となっています。

テラスからは1897年に加えられた、ネオゴシック様式の尖塔が間近に見えます。そのてっぺんには黄金の大天使ミカエルが立ちモン・サン・ミシェルを守っています。

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ちょっと広いテラスから干潟を眺めます。だいぶ潮が引いた状態で今ならフランス本土へ歩いて行けそうです。

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モン・サン・ミシェルのシンボル大修道院教会。この岩山の上に修道士たちが建てた大聖堂は約1000年という時間をかけて崩れては作り直しを繰り返してきました。その結果時代時代に流行った建築様式が入り混じるとても不思議な造りとなりました。別々の異なる様式はお互いを拒絶することなく共存し、海の上という環境とも融合して、ここにしかない景観を作り出したと言えます。そしてその神秘の景観にひかれて人々がやってくるのですね。かくいう僕もその一人。

 

この後 ラ・メルヴェイユ(奇跡 La Merveille)と呼ばれる建物へ。

 

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