cafe mare nostrum

旅行の記憶と何気ない日常を

シャモニ小話 氷河に立つ

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僕はかねがね「いつか氷河の上に立ちたい、氷河をさわってみたい」と思っていた。だから遠く氷河の表面に人の姿を見つけたときは、迷わずそっちに向かって進みました。そして、ずんずん進んでいくと道が切れた。下を見下ろすとたくさんの人が氷河の上にいる。さらに氷河の奥へ歩いていく人が見えて、さらに奥の方にはいくつものパーティが氷河を歩いていくではないか!!僕の血は最高にたぎることになった。

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*命がけ(崖)

道が切れたのは、その先は絶壁だからでした。下を覗いてみると古ぼけた金属製の梯子がいくつもかかっていて、下の方まで続いています。何に迷いもなくこの梯子を降り始めたのだけど、間もなく”これ崩れやしないか?”と軽い恐怖を感じながら、梯子と梯子の間は岩壁の人ひとりがやっと通れる細い道というか天然の段差を通ります。もちろん転落防止の柵などありません、またこの梯子道、1本しかないので時々登りを待つ人、下りを待つ人で渋滞が起こります。こんな風にこのスリル満点のこの絶壁を降ていきました。

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*ついに

氷河におり立った。そこはすごい世界でした。

氷河の表面は上から見ると平坦に見えるのだけど、実際はとても起伏に富んでいる。その様子は嵐で荒れ狂う海を瞬間冷凍したような姿なのです。ここはそんな嵐の波間のような場所。早速氷河の表面を触ってみると、氷の表面は思いのほかザラザラ。というのも氷河でも岸辺のこの辺は氷河に削られた岩の破片やら砂やらが氷の表面を薄く覆っているので、いろも灰色っぽく、表面はざらついているのです。

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そして岸辺から離れた氷河の中央部はその砂かむりがなく、本来の氷の色に近い白となります。

氷河との境の山肌をみると、氷河が大地を削っているのだということ、氷河の模様の理由がよくわかります。

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そしてあちこちにクレバス(裂け目)があったり、氷河表面はとても表情豊かです。クレバスの奥はとても綺麗な吸い込まれるような青。これは雪が圧縮されてできた氷特有の色だとか。滑って落ちた時には何語で叫べばよいか考えながら、滑らないように慎重に裂け目の脇ぎりぎりまで寄って少し身を乗り出して撮ったのが下の写真。

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*夢叶うも

グレーに色づいているところ、砂がかぶっているこの辺ならそんなに滑りはしないだろうと思って歩いてみたけど、やはり氷の上であることに変わりはなく、気を付けて歩かないと平坦なところでも滑って転びそう。しかし、あの氷河の中心部の白く輝く所へ行きたくて、今からすればとても無謀だったと思うけど、うねる氷の稜線にそって奥へ向かって少し歩いてみた。でも最初の丘の上り坂ですでにすべってクレバスに落ちそうな危険を感じて立ち止まる。今までいろいろなところに出かけ、遭難しかけたりしたこともあったけど、「ここは危険だ」と野生のカンがささやいたのでした。

残念だけど仕方ない。丘の先で見えない氷河の中心部の方を眺めたあと、すごすご引き返したのでした。でも、その下坂を引き返すときもかなり危険な状態で一歩間違えればクレバスに食われてもおかしくないという具合でしたので、この時の判断は正しかったんだろうな。

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この瞬間まで「氷河に立った」喜びでテンション上がってたので気づかなかったのだけど、改めて周りにいる人たちを冷静に見てみると、今更ながら当たり前でみんな重装備の人たちばかり。靴の裏には、氷の上でも滑らないスパイク状の装備がついている。僕のような「観光客です」という格好をした人はまずいないことに気づく。「自然を恐れ敬え」その先に幸せな共存があるということなんですね。

そんなわけで、仕方なく氷河奥地へはあきらめて、氷河の岸辺に戻り、氷河の上、クレバスの横で食事をすることで我慢することにしたのでした。

 

食事中もいくつものパーティが氷河奥地へ向かって出発していく。さっき降りてきた絶壁の梯子を見れば上の方から人がひっきりなしに降りてくる。僕と同じように氷河にえもいわれぬ魅力を感じる人は大勢いるだろう。

 

山に降り積もった雪が春になっても溶けることなく氷となり、何十kmという流れを作る。落石やクレバスがその表面にいろいろな表情を付けて、その内側には雪が圧縮されて氷となった本来の深い青が覗かせる。何十年、何百年かけて流れきって雪解け水と一緒に消えていく。僕が今立っている氷は一体何年前にどこでできた氷かを考えるととても暖かいような、守られているような気持ちになるから不思議です。

 

氷河の奥に進むことはできなかったけれど、ついに「氷河の上に立つ」という夢は叶いました。

満足して、あの壊れかけのはしごの岸壁を登り、歩きでシャモニの街へ向かいました。

帰りに上から見る氷河の姿は、往きと同じ景色をみているはずなのだけど、間近で氷河の中に入って初めてわかったいろいろなことが、今まで見ていたものとは全く違う景色にしていました。

 

これから歩きでシャモニ針峰群をうかいして、シャモニの街までトレッキングです。

 

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