ある年に僕は、フィレンツェからいわゆるイタリアの新幹線「ユーロスター・イタリア」に乗りヴェネツィアを目指しました。
花の都から水の都へ。ルネサンスの街からこの世にふたつとない海に浮かぶ街へ。
この列車、イタリアの有名な車デザイナー、ジウジアーロのデザインだそうで、こういうところにこの名前が出てくるところが、イタリアという国を象徴しているように思えて羨ましく感じてしまいます。
列車がフィレンツェS.M.N駅を出るとすぐ大きなサンタマリア・デル・フィオーレのクーポラが僕を見送ってくれるんです。僕は車窓からあのクーポラを見ることで、フィレンツェに到着したことも、離れることも実感します。
さて列車は程なく街抜け、豊かな田園地帯を行くことになります。このフィレンツェ周辺は「トスカーナ地方」と呼ばれ、起伏に富んだ豊かな、文字通り絵になる景色がしばらく続いていきます。でも、僕にとってフィレンツェ周辺の車窓は頂けない。絵になる素晴らしい景色の宝庫なのだけど、トンネルが多いのです。
しょっちゅう車窓がブラックアウトしてしまうので、落ち着いて眺めていられない。
また素晴らしい景色は写真に収めたい。だけどちょこちょこトンネルに遮られる。素晴らしい車窓がみえて「いい景色だ写真を撮ろう」とカメラを出して構えた瞬間トンネルイン。それの送り返しだったと思う。。。なんか小馬鹿にされているような気すらして結構ストレスなのです。。もちろん列車にそんなつもりはないのもわかっております。
さて列車は進みボローニャをすぎる頃にはすっかり景色も平坦になって、トンネルもほぼなくなりストレスなく車窓を楽しむことができるようになりました。見渡す限りの畑が車窓に広がり、同じイタリアでもずいぶんと景色が変わるものだと感心しきり。
やがて列車は高架を行くようになり、畑の作物に高架を行く列車の影が踊る様子は、今なら迷いなくiPhoneでビデオ撮影してただろうな、と思う映画のシーンに使われそうな印象的な景色だった。
気がつくと畑も過ぎ去り、周りにはモンサンミッシェル近くで見た水辺と同じ、潟特有のテーブル台地が多くなった。と思ってすぐ、列車は海に出ました。
そして進行方向の遠くには、海の上をうすく覆うように街の建物が見える。
なんだこれは!?
気がつくと1864年にできたイタリア本土とヴェネツィア本島を結ぶ鉄橋の上。写真と反対側の車窓には自動車道があり、車が並んで走っているのが見えた。
同じようなシチュエーションで言えばモン・サン・ミシェルを初めて観た時と同じレベルの衝撃。海の上に街があるんです。モン・サン・ミシェルだって城壁に囲まれていた。ここはそのまま街の建物。この時、僕は単純に「ウソでしょ?」と何度も自分に問い直していました。もちろん本当に嘘とは思っていない。でも海に浮かぶ、海を覆う街の姿はコミカルにすら見えて、その不思議さたるや過去訪れた街の中でも最上級のレベルでした。
間もなく列車はヴェネツィア・サンタ・ルチア駅に到着。ヴェネツィア初上陸。
これからヴェネツィアの街に繰り出します。