cafe mare nostrum

旅行の記憶と何気ない日常を

ローマ小話 折衷の粋

ローマを歩いていくと、ところどころでちょっと不思議な建物に出逢います。初めて目にしたあれは、今ではもう、どこの何かもわからない。歩きながらふと道端の建物に目をやると、外壁がなんだか不自然に凹んでることに気づきました。少しずつ視線を下の方に移すと、現在の地面レベルより低い位置のその凹みの部分には、小さなローマの円柱が一本収まっていました。この一本の円柱を残すために建物の壁を凹ませていたんです。それも上の方まで!このことは当時の僕にとって結構、衝撃的なことでした。

二つ以上の文化が混じり合う瞬間というのはとてもドラマチックだと思います。元々芸術家とか、建築家、クリエイターと言われる人々でさえも全く何もないところから何かを生み出すことはなく、今まで見てきた何か、記憶のどこかに引っかかっていた何がインスピレーションの種になる。そして大きく異なる文化の接触はその融合を通じてとてつもないレベルで人々の創造力を刺激するんだと思います。日本で言えば明治や大正に入ってきた西洋文化に出会った時、ローマで言えば、黎明期のローマ人がギリシア文明に触れた時、また中世のフィレンツェ人やローマ人がルネサンスにより復興された古代ローマギリシアの文化に出会った時、建築家や芸術家はじめ当時の人々の中で創造の嵐が吹き荒れたのではないかと、想像するとワクワクしてしまいます。

 

■古代の神殿を見事に建築としてミックスした例

フォロ・ロマーノアントニヌス・ピウスとファウスティーナの神殿は中世からルネサンス期にその神殿の構造を土台に使い、コリント式の円柱と外壁と円柱上の梁の部分とバロックファサードをミックスした斬新な教会となりました。

 

■構造体として融合

このサン・ニコラ・イン・カルチェレ教会( Basilica di San Nicola in Carcere)は壁の中に溶け込んだようにローマの神殿の円柱と梁の部分が存在しています。後世の建物の壁に侵食されたかのよう。この教会はこの場所にあったヤヌス、ユノー、スペスの3つの神殿を利用して建てられたもの。神殿の円柱と梁を外部に露出したのは、ローマ神殿建築に対する、敬意ともしかすると当時の流行りもあったかもしれません。

 

 

他にもいくつか、あろうことか自分の写真が残ってないのですが、

■壮大な神殿建築の威光にあやかって

死後、神格化されたハドリアヌス帝を祀るために145年に建てられた神殿は、17世紀に教皇庁宮殿として新たにリフォームされました。ハドリアヌス帝のコリント式神殿の横壁と円柱群をそのまま正面ファサードとして使用されています。高さ15mのコリント式の円柱が11本、その後ろに神殿の巨大な内陣の壁が新しい建物の壁として組み込まれている。融合というより巨大で荘厳なコリント式神殿をそのまま活かした感はあるのだけど欧米の公的機関や金融街の建物に古代ギリシア・ローマの要素が少なからず見られることの走りなのかもしれません。1815年以降は現在に至るまでローマの証券取引所として使用されているそうです。

 

 

■廃墟を活かした斬新な教会

サンタ・マリア・デッリ・アンジェリ・エ・デイ・マルティーリ聖堂(Basilica di Santa Maria degli Angeli e dei Martiri)教会

ローマの崩れた浴場施設をミケランジェロが教会として改装。ファサードはその浴場の廃墟をうまく、そのまま使ったとても斬新な教会。古代ローマギリシア芸術と一番向き合ったであろうう、ルネサンスの巨匠ミケランジェロでなければこの建物を創造し得なかっただろう、ミケランジェロのセンスを感じる斬新な教会です。

 

 

■居候?

古代ローマの半円形劇場に勝手に住居を加えてしまった。。。「マルケルス劇場」これはまた後ほど詳細に。。

古代の建築と中世建築の融合。

ローマにはそんな建物がたくさん並びます。そういう大小の折衷建築を探しながら歩くのはローマ散策の楽しみの一つです。

 

洋の東西、時代を問わず人間の所業は普遍的。

マキアヴェッリが嘆くように語ったのは「だから、どこでもいつの時代も人間は同じ醜態を繰り返す」。

でも異文化の融合では人の本質によって驚くような作品が残されててきたのも事実。なので人の本質も悪いことばかりではないな、と思うし、思いたい。

ローマに存在する優れた折衷建築や、びっくりするような古代建築との共存、壁を凹ませてまで守る円柱一本、そんなものたちをローマの街で見つける度に、僕はそんなことに思いを馳せてしまうのです。

 

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