cafe mare nostrum

旅行の記憶と何気ない日常を

小話 5月29日

3月15日(Idus Martiae)は今まで何度も取り上げたきましたが、今日は5月29日のお話を。

5月29日は何の日かといえば、

1453年コンスタンティノープルが陥落して古代ローマの系譜が途絶えた日。この日から573年が経ちました。

1660年にはイギリスのロンドンでチャールズ2世が共和政から王政に切り替えた日

1913年にストラヴィンスキーの春の祭典の初演の日

1953年は人類初のエベレスト登頂の日

 

5月29日が誕生日の人

チャールズ2世

J.F.ケネディ

美空ひばり

親戚ひとり

知り合いひとり

そして

5月29日は僕の誕生日でもある。

みんなそれぞれ自分の誕生日の数字の並びには特別神秘的な感覚を持っているのだと思います。そりゃそうです。まず自分がここにいること自体が奇跡だし、生まれてこのかた何度も誕生日を祝ってもらえることも奇跡以外の何物でもない。さらにそれが現代の日本という国であって、今は戦争や紛争から距離を置いている平和な環境に居ることができて、幸せに自分のやりたいことを思い切りやることができる。こんな幸運に恵まれて、時間空間を超えて、今ここに存在してることに感謝の気持ちが溢れるわけです。そんな自分のこの世に誕生した運命の日は誰もが大事にしていることだろう。

僕もこの5、2、9の数字の並びが、理由もなくすごく好きで子供の頃からこの5月29日という誕生日を誇りにすら思っていました。僕にとって誕生日である5月29日はまた格別な響きを持って迎える一日でした。そしていろいろ学ぶとコンスタンティノープルが陥落して、ローマの系譜が途絶えた日も5月29日。勝手ながら自分とローマの並々ならぬ結びつきを感じずにはいられない、と勝手に盛り上がったりするわけです。

僕にとって今年の5月29日はまた特別でした。

母親に誕生日のお祝いを言ってもらえなかった初めての年となりました。この歳になって母親からお祝いされることがどうとかいうことではないのだけど、いずれくること、わかっていることではあるけれど、ついにこういう日が来たかと。今までも別に電話で一言、とか、LINEで一行とかその程度ではあったわけだけど、それすらなくなってしまった。

 

ここ数年でうちの母親は記憶力が極端に低下していろいろなことが思い出せなくなってしまっている。特に短期の記憶は全くだめで、おそらく新い記憶は3分と持たない。母親が子供の頃や若い頃のことは今でもよく覚えているし、その瞬間は結構シャキッとしているのだけど、新しいことはほぼ消えてしまう。今日が何月何日なのかも聞いてもすぐ忘れてしまうから、僕の誕生日のことだけでなく、今日が何月何日である、何の日であるということは頭の中から消えてしまっているのです。

だから仕方ないのだけどやはり母親に誕生日を祝ってもらえなくなってしまったというのは、わかってはいても寂しいものです。

 

そんな母親を目の当たりにすると、僕はローマ帝国五賢帝の最後の一人マルクス・アウレリウスの言葉を思い出すんです。

「 (前略)だから急がなくてはならない。なぜなら私達は一日一日と死に近付いているからだけでなく、この世界を把握する能力が、その前に消え去ってしまうからだ」

母親は体はウソみたいに丈夫で元気なのに記憶が、特に短期的な記憶が消失してしまう。さっき話したことを覚えてない。自分で買い物してきたことを覚えてない、誰と会ったか、何を食べたか、何をしたのか、今日が何日なのかわからない。

本人もそれを自覚してるから不安もあるし辛いだろうなとも思う。

一生懸命生きた人生終盤に濃い霧が立ち込めたようなそんな状態に、少しでも不安を減らすことができないものか。

そして、こうも思う。

いずれ自分も同じようになるのだろうかと。

だから急がなくてはならないのだ、と。

 

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