僕は大体、パリの北駅に到着してそのままメトロに乗り換えモンマルトルを目指します。2号線のANVERSの駅を後に、細い坂道を丘へと登っていきます。このメトロを出て坂を登り始めたあたりから、モンマルトルに来たということを実感するのです。
やがて建物と建物の間から、真っ白なサクレクール寺院(Basilique du Sacré-Cœur)が顔を出し「よく来たね」と迎えてくれる。
「モン・マルトル」の名前の由来は諸説あり。
ローマ時代にここに建てられた「メルキュール神殿」に由来するという説。
紀元250年ころにパリの初代司教(僕とゆかりの深い)サン・ドニがこの地で斬首されて殉教ことから「殉教者の丘(モン・マルティール)」と呼ばれたことに由来するとも言われる。
■サクレクール寺院(Basilique du Sacré-Cœur)
パリ全体を見渡せる緑の丘に階段、その上の白亜のサクレクールがモンマルトルのシンボル。
1919年にパリの北端にある標高129mの丘にこの白亜の聖堂が誕生しました。サクレクールは19世紀末の普仏戦争の敗北とパリ・コミューンの悲惨を癒すためにとフランス国民の献金によって1877年に着工、41年の歳月をかけて建設されました。完成したのは第1次世界大戦が始まる1914年、礼拝堂として使用され始めたのは1919年のことでした。サクレクールは第1次世界大戦の苦悩も背負うことになります。
そもそも「サクレクール」とは「聖なる心臓」を意味する言葉で、フランス語圏に多くみられる寺院の名前。フランスからベルギー南部にかけてたくさんのサクレクール寺院が存在するので、ここは正式には「モンマルトルのサクレクール寺院(Basilique du Sacré-Cœur de Montmartre)」といいます。
建物はロマネスク様式とビザンチン様式が混在さらに内部はバシリカ様式も入り混じり、ちょっとやりすぎな感じもありますが、伝統を活かしながら巧みに融合することで斬新で美しい姿に仕上げられています。19世紀末、エッフェル塔と同じく新しいパリを象徴する建築となりました。今やサクレクールのないモンマルトルは想像できない、エッフェル塔みたいな存在になっていると思います。
■丘からの眺め
大地に根ざした丘の上から眺めるパリは、エッフェル塔の展望台とはちがった何か地についたような安心感を伴った景色です。
ちょうど正面にノートルダム寺院が望めます。
右手にモンパルナスタワー。
これだけがニョキっと聳える構想ビル。市の中心の景観を徹底的に美しく整備したパリの街の特徴の一つ。この右の方にエッフェル塔があるはずですが、木々に隠れて見えません。
右手下には金色の2体の像を据えるオペラ座(パレ・ガルニエ)が、左手にはオルセー美術館の建物が見えます。
これはある日、朝靄に包まれ黄金色に染まるパリの街。
この日の朝、サクレクールとモンマルトルは霧につつまれ、普段とはまた違った雰囲気でした。モンマルトルもまた、昼間はほとんどの場合大勢の人が集まり、とても賑やかで落ち着かない。ここも朝早く訪ねると、丘もパリの景色も独り占めすることができるのです。
初めてパリに来てモンマルトルを歩いた時、このサクレクールの脇で僕はある出会いを果たします。それは何気ない風景との出会いでした。