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旅行の記憶と何気ない日常を

真実の口 マルケルス劇場界隈4

ローマきっての観光名所となっている真実の口( Bocca della Verita)。

フォロ・ボアリオから通りを挟んだ向こう側には、かつてヘラクレスための大きな祭壇があったといいます。昔ここに出没した牛泥棒を退治したのがヘラクレスである(ということになっている)という謂れで、ここはヘラクレスに守られる場所となっていました。そして、かつてヘラクレスの祭壇があった場所にサンタ・マリア・イン・コスメディン教会(Santa Maria in Cosmedin)が建てられたのは6世紀ごろ。

この教会の柱廊式玄関の端っこに、さりげなくいるのが真実の口。ギリシア神話の海の神オケアノス(Oceanus)をかたどったとも言われる大理石の円盤は古代ローマのマンホールのフタと言われています。古代ローマの都市は首都ローマだけでなく、地方都市でもインフラとして上下水道が完備されていました。2000年前、その下水道の蓋として機能していたこの大理石の円盤が今「真実の口」という役割を得て、数えきれないほど多くの観光客の手をその口で受け止めているのです。

この口が教会の正面柱廊に置かれるようになったのは17世紀になってから、と言われます。ルネサンスで掘り起こされた大理石のマンホールの蓋、同じく掘り起こされたであろう神殿の柱頭(イオニアとコリント式がミックス)に乗せた形でひっそりと置かれています。

6世紀に完成以降何度も改築され、ロマネスクの鐘楼を持つとはいえ、ローマの他の教会や遺跡に比べたらとても地味なこの教会を、一大観光名所にしたのは映画「ローマの休日」。

「うそつきがその口に手を入れると手を噛み切られる」という真実の口の伝説。

ローマの休日」では、オードリー・ヘプバーン演ずるアン王女の前で、Joe(グレゴリー・ペック)が「伝説の口」に手を入れると、手首を噛みちぎられる小芝居を打つという、ローマの休日の中では一番スリリングなシーン。

実際の撮影でグレゴリー・ペックはあの「手が噛みちぎられる小芝居」をアドリブで加えました。なので、あのオードリーの半べその大騒ぎは素の姿で演技ではないというのは有名な話。続いて映画では散々大騒ぎした二人(+カメラマンのErving)が去った直後に、真実の口のアップがほんの短い時間映ります。。真実の口の何ともいえない寂しそうな、微笑を浮かべたような姿がとても印象的で、真実の口がとてもいい演技をしていました。

 

この映画のおかげで、ここには観光客が絶えません。みんな一様に、マンホールの口に手を入れにっこり記念写真をとり、去っていく。この一枚の記念写真を撮るために長い列に並ぶのも厭わない。日中は長い行列がこの教会の前にはできるのです。

かく言う僕も真実の口に手を突っ込んだ一人なのですが、やはり朝方は人が少なく、ゆっくりと真実の口を堪能できます。口の中は意外と浅くしっとりとした感覚を今でもはっきり覚えています。

ローマの休日」は1954年の映画で、今から半世紀以上昔になる。ところが、今目にするローマの街は映画に出てきたローマの街とほとんど変わっていない。真実の口も、トレヴィの泉も、サンタンジェロもみんな映画のままだ。日本で50年前といったらまるっきり街の様子は変わっているだろう。

もっとも、ローマは二千年前の名残がごろごろしている街。50年などという時間は瞬きする間のようなものか。

 

 

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