cafe mare nostrum

旅行の記憶と何気ない日常を

レマン湖畔小話 〜ニヨンから道草

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僕はジュネーブやアルプスの観光客向けのリゾートとは違う、本当のスイスの姿を見たいと思ってニヨンから寄り道をすることにした。当時定番ガイドブック"〇〇の歩き方"に小さく紹介してあった「サンセルグ(St-Cergue)」という村に向かうことにした。

ニヨンの駅前からほとんど人のいない1両編成のローカル線でジュラ山脈をとことこ登る。葡萄畑の中を進み、振り返ると朝靄でぼやけてはいるがレマン湖が見える。空気の澄んだ日ならとても景色がいいだろう。ずいぶん登ってほぼ山のてっぺんまで来ると、そこがサン・セルグだった。

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ガイドブック"〇〇の歩き方"には"終点"とあったけど、実際はサンセルグの先にもローカル線はのびている。"〇〇の歩き方"にはちょくちょく騙される。こういう有名な場所でない場合、その頻度はぐんと上がる。今回もガイドに書かれていたことは何一つ見つからなかった。

 

サンセルグの駅の周りには何もない。

駅には地図があったのだけど、とても広域の地図で、ニヨンの場所はわかるけど、この村のどこに何があるかなんてとてもわからない。駅員が一応いたのだけど、とても冷たい。"〇〇の歩き方"に書いてあった山に登るリフトはないか尋ねても、そんなもんはないよと答えが返ってきて、この辺の詳しい地図はないか尋ねるとさっき見ていた大ざっぱな地図を指さされる始末。

ローカル線でのここにくる途中までの眺望はなかなか良かったのだけど、サンセルグの辺りは四方が山に囲まれて"良い眺望"は見られそうもない。またあのガイドに騙されてしまった。

でもせっかく来たので少し村を歩き回ってみることにした(道に迷わないように)。

しばらくすると、村の中心らしいところに出た。インフォメーションセンターもあったが閉まっている。"〇〇の歩き方"がこのことを言っていたのか(スキー場の)リフトがあるが運転はしていない。小さい村なのだけどリゾート化がかなり進んでいて、大きなホテルや旅館が多くあった。おそらく冬はスイス人がゆっくり過ごすためのスキーリゾートになるのだろう。国外からの旅行者むけと言うより、スイス近隣の人たちのリゾートと言う感じ。残念ながら僕が見たかった村ではなかった。

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ぐるっと回って駅に戻り、ニヨンに帰ることにした。

帰りの電車の中で、ふと思い立った。"景色のいい駅で途中下車しよう"と。

ここは何という駅かわからないけど駅舎もない無人駅の周りは牧草地や畑が広がっていた。所々小さな木立があり、遠くに朝靄に煙ってレマン湖も見える。反対側、ジュラ山脈の方には村が見える。ここだと思って慌てて降りて、人気のないこの一帯を次の列車が来るまで約1時間くらい、線路に降りてみたり、反対側の畑の中を歩き回って過ごした。

空は青いし、雲はきれいだし、緑が鮮やかだし、小鳥の声くらいしか聞こえてこない静かでとてものんびりした贅沢な時間を過ごせた。

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誰もいない、とても静かで鳥のさえずりしか聞こえない。

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ひたすら長閑で気持ち良い。こういう場所がとても好きだな。

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僕はこんなスイスを探していたんだな。

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そろそろ電車の来る時間だと思い、駅に戻る。時間になってもなかなか電車が来ないのでもう一度時刻表を確かめてみる。かすかに覚えているフランス語の今日の曜日からすると(ヨーロッパの鉄道は平日、土、日で時刻表が異なる)もう来て良い頃なのだが…・。

 

すると15分ほど遅れて畑の遙か彼方に電車が見えた。

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ほっとして手を挙げて電車を止めると、車掌兼、運転手が機嫌悪そうに出てきて、なにやらフランス語でぶつぶつ言いながら出てきた。そして、私の前を通り過ぎ、小さな駅舎の中の時刻表脇、変なボタンを押して私に向かって何か言っている。どうやら乗りたいときは事前にこのボタンを押すのがルールらしい。停車信号がないので通過しようとしたら駅で私が手を振っていたので、ああびっくり、と言うところらしい。

はじめすごい剣幕で車掌が出てきたので乗せてもらえないのかと思ったけど、申し訳なさそうな表情をしたら何とか乗瀬てもらえた。


途中下車した無人駅の周りは、僕が見たかったスイスだった。サンセルグは残念だったけど、危なく帰れなくなるところだったけど、ここは思わぬ収穫だった。

 

 

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