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ローマ小話 ローマ建国の物語

紀元前753年4月21日、ローマが誕生しました(ということになっています)。

ローマ人のルーツはトロイの木馬の物語で知られるトロイア人(とローマ人が言っています)。あの有名な「トロイの木馬」として現代に伝わる物語がローマの始まり(ということになっています)。

トロイア陥落の物語

紀元前13世紀ころ、トロイアの王子パリスが女神たちにそそのかされてスパルタ王妃ヘレネに恋して誘拐したことに端を発したギリシアトロイアの長い戦争、これがトロイア戦役です。長期化した戦争の10年目に、英雄アキレウス(Ἀχιλλεύς)擁するギリシア軍は知将オデュッセウスによる奇策「トロイの木馬作戦」を発動しました。この奇抜な作戦によって難攻不落といわれたトロイアはついに陥落するのです。

*トロイの遺跡にあるトロイの木馬

ちなみにこのトロイア戦役を描いた叙事詩が「イリアス(Iλιάς)」、トロイア陥落後オデュッセウスが部下達を率いて、ギリシアに帰国するまでの長い冒険が描かれたのが叙事詩オデュッセイア(ΟΔΥΣΣΕΙΑ、オデッセイ)」です。共にギリシア最高の詩人と言われるホメロス(Oμηρος)が今から約3千年前の紀元前8世紀に残した名著ですが、現代の書店にも普通に並んでいます。

*EUROになる前のギリシアの小銭に刻まれたホメロス

話は戻って、「トロイの木馬」物語はトロイア陥落と共にここで終わるのですが、この物語には続きがあります。「ローマ建国の物語」がここから始まるのです。

■ローマ誕生前夜

そのはじまりは何とも取ってつけたような展開、いや、ドラチックに始まります。

トロイア陥落の、トロイア人は全滅かと誰もが思ったその時、トロイアから秘密の地下道を使って逃れた人たちがいました。その一団を率いた英雄はその名を「アエネイアス(Αἰνείας)」と言いました。元々トロイア王家の血筋で美の女神アフロディテを母に持つ(?)神の血を引く(と言われてる)トロイアの名門家系で、後にイタリアのアルバ・ロンガに繋がる一族。

トロイア陥落のその時に、老いた父を背負い、幼い我が子の手をひきながら一族郎党を連れてトロイア陥落の惨劇から逃げ延びたアエネイアスは、やがてラティウム(イタリア)へたどり着きます。そしてアエネイアスの末裔たちが今のローマより上流に都市国家アルバ・ロンガ(Alba longa)を作るのでした。

■伝説の雌狼

時は流れて紀元前8世紀のある日、アルバ・ロンガに軍神マルスの血を受け継いだ王位継承者となる双子の男の子が生まれます(神の血筋?もう何も感じない)。双子はロムルス(Romulus)とレムス(Remus)と名付けられますが、生まれてすぐにアルバ・ロンガの王位継承争いに巻き込まれ、双子はカゴに入れられてテヴェレ川に流されてしまいます。そして一匹の狼が川を流れる双子を見つける。ここで双子の赤ん坊の運命尽きた!と誰もが思ったその瞬間、この雌狼はテヴェレ川から優しく双子の籠を引き寄せ陸にあげると、この双子に自分の乳を含ませたのでした。そして雌狼はパラティノの丘の洞窟でこの双子を育てました。

これが「カピトリウムの雌狼」の話。この双子の命を救い育てた雌狼の姿は今でもローマのシンボルとして扱われているのです。

雌狼に命救われた兄弟はやがて豚飼いの夫婦に引き取られ成長していく。この後二人は成長し力をつけて自分達を川に流した反逆者に復讐を果たし、自分達が捨てられ助けられたテヴェレ川沿に新しい国を作ることにしました。しかしその途中で双子の間で争いが起こり、兄は弟を殺してしまいます。兄ロムルスは弟レムスを埋葬し、自分達が助けられ育てられたパラティノの丘で新しい国家をつくる決意をします。

■ローマ誕生

ロムルスはパラティノの丘を城壁で囲います。紀元前753年4月21日、神への儀式を執り行う事で初代ローマ王ロムルスが誕生し、ここに王国ローマが生まれましたとさ。

 

これがローマ誕生の物語です。以来1000年以上に渡り、毎年4月21日にはローマ建国を祝う祝祭が執り行われていたといいます。

 

神様が出てきて、人間の子供を育てる雌狼が出てきて、遠く離れたトロイア陥落と自分たちの出自を結びつける。。。一見無茶な話ではあるのですが、新しい場所で新しい国家を作り、これから発展させていく中で「自分たちが何者なのか」を定義することは国民のこころの拠り所としてとても重要な要素です。これがあるかないかは大きな差になります。ロムルスはこのことを理解していたのでしょう。

「いまは不遇な時期だけど、我々は神の血を引く、勇敢で素晴らしい文明を築いたトロイア人の子孫である」

こうしてローマは新たな船出に向かって、不安よりも大きな自信を得た。

それが正しいことは、この後につづくローマの歴史が証明しています。

そして、その時からざっと3000年たった今でも、ローマではこのローマ誕生物語が実しやかに語り継がれて、(半ば楽しく)信じられてるのです。素晴らしいことだと思う。

 

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