僕がルーアンを訪ねたのはルーアン大聖堂のモネを確かめたかったからでした。
モネは1892~1893年の数週間をここルーアンで過ごし、30点以上に及ぶ「ルーアン大聖堂の連作」を描きあげていきます。
モネは1872年に「印象、日の出」を描いて以降、印象派として光と空気の揺らぎを表現してきました。そしてモネが50歳を迎える直前に一つの転機が訪れます。1888年にジヴェルニーの自宅のそばで「積みわら」を描いてから、ひとつのモチーフが日々刻々と変化していく様子にのめり込んでいきます。1891年に個展ではじめての連作として15点の「積みわら」を発表すると大きな評判となり、モネは連作にのめり込んでいきます。
そして次なる連作のテーマにこのルーアン大聖堂を選びました。
モネはこの頃からひどいリューマチを患って、戸外で雨風を受けながらの作品制作はちょっと体がもたない。そこで自宅のあるジヴェルニーから近く、「ルーアン大聖堂」というモチーフに取り組むことにした。大聖堂の広場にある帽子店の2階の部屋を借り、この部屋の窓から見える大聖堂に移ろう光りをモネは描き込むことにしたのです。
こうして完成した「ルーアン大聖堂」の連作は帽子屋の2階の部屋の窓からの景色なので、ほとんど視点が変わりません。また大聖堂前の広場は狭いので、かなり聖堂が近く全体像ではなくファサードの一部を切り取った作品であるというのも特徴です。
*ルーアン大聖堂の連作(左 朝の陽光 青のハーモニー、右 茶色のハーモニー) @オルセー美術館
*ルーアン大聖堂の連作(左 曇天、右 朝の効果 白のハーモニー) @オルセー美術館
モネは帽子屋の2階の窓から、朝昼晩ひたすらルーアン大聖堂を描いていきました。
モネはこんなことを言っています。
「あらゆるものは千変万化する、石でさえも」
モネは石で作られたルーアン大聖堂から光と空気による様々な変化を感じ取り、その千変万化の様子はモネのその目と脳を通して30もの異なる姿で作品となったのです。
僕はルーアン滞在中、同じ広場に面した安宿に泊まり、短い間だけど、できる限りいろいろな時間、このルーアン大聖堂を眺めてきました。
そうなんです。確かに千変万化するんです。石で作られた聖堂でさえも。太陽は常に動き続け、その角度によって光の色合いはどんどん変わっていく。空模様が変わればその光も変わる、そこに大気の状態、風や湿気によっても光の様子はさらに変化する。
連作にはない僕が見た大聖堂。この2枚の写真、朝靄に霞む大聖堂、夜のライトアップに輝く大聖堂。この姿を見たらモネはどんな絵にしてくれただろうか?