cafe mare nostrum

旅行の記憶と何気ない日常を

フィレンツェ小話 最後の夜

f:id:fukarinka:20220408225105j:plain僕にとってこの年のフィレンツェ最後の夜は、これといって特別な出来事があったわけではなく、淡々と、しかしとても贅沢に過ぎていきました。自由気ままにすごしたあの時間をのんびりつづります。

☆ 最後の夜の始まり ☆

その日、朝から一日シエナを歩きまわり、フィレンツェに帰ってきたのは夕方の6時ころでした。この年僕はサンタ・マリア・デル・フィオーレの目の前に宿を取っていたので夕日に染まる極彩色のファサードを見ながらホテルに戻りました。さぞ高級なホテルかと思われるかもしれない。でも実際は入り口がドゥオモ広場に面しているだけで、ホテルそのものはちょっと奥まった場所にあるので中に入ってしまえばドゥオモも何も見えません。ただマイナス要素はそれだけで、言ってみれば掘り出し物の宿でした。

f:id:fukarinka:20220109223924j:plain

このホテルは今回フィレンツェに着いて、宿を探し始めて最初に入ったところで、サンタ・マリア・デル・フィオーレからヴェッキオ宮殿への道の入り口、サンタマリアデルフィオーレとは本当に目と鼻の先にある。ここの主人はめがねをかけた白髪の、とても穏やかなおじいさんだった。眺めはよくないが部屋は広くきれいで、値段は決して格安ではないが、この場所と部屋からするとずいぶん安い。おじいさんは部屋を見せながら「だまされたと思って泊まってみなよ」とウィンクする。嫌みのないおじいさんの立ち居振る舞い、優しそうな目に「だまされることはなさそうだし」と 一軒目にして泊まることにしたのでした。

シエナへの旅をともにした荷物を部屋におき、夕食を食べるために外に出る。昨日と同じように、おじいさんに安くておいしいトスカーナ料理の店を教えてもらった。「昨日のはどうだった?」ときかれ、「とてもうまかった、ありがとう」と答えると「そうかそうか」と穏やかに応え、今日のおすすめの店を教えてくれる。

☆ トスカーナ料理屋にて ☆

外に出るとまだ街には人があふれて、フィレンツェの一日はまだ当分終わりそうにない。 ホテルのおじさんに教えてもらった、この日のトスカーナ料理屋は昨日よりもさらにボリュームアップで一皿がとても多い。

f:id:fukarinka:20220410024133j:plain

セットを頼んで前菜、パスタ、メインの肉料理とスープが出てきたが一皿一皿がとても強烈だった。

f:id:fukarinka:20220410024202j:plain


とてもおいしかったのですべて残さず食べていたのだけど、最後デザートが来たころにはお腹がはち切れんばかりでついに巨大ティラミスを1/5ほどのこしてギブアップをしてしまった。大満足ながら大きな敗北感。ホテルのおじいさんのおかげでフィレンツェ滞在中の夕食は、僕の旅にしては異常なほど充実していた。

☆ 夜の街 ☆

料理屋から外にでるともうあたりは真っ暗だった。僕はフィレンツェ最後の夜を腹ごなしもかねて散歩して過ごすことにした。まずはそこから歩いてすぐのサンタクローチェ教会へ向かった。ちょっと控えめな照明に照らされた白亜のファサードの前で、子供たちがサッカーをしている。ここには夜はあまり観光客がこないので、広場は子供たちの声とボールを蹴る音がこだましているだけでとても静かだった。

その後街の中心へ進むにつれてだんだんにぎやかに照明も明るくなってくる。サンタ・マリア・デル・フィオーレにつくと昼間とかわらない人出だった(と思っていた。なぜ思っていたか、なのかは後ほど)。

f:id:fukarinka:20220410024229j:plain


ライトアップされて見事に夜空に映えるサンタマリアデルフィオーレのファサードの前ではジプシーのバンドが演奏している。僕はしばらくその対面にある洗礼堂の柵に座りジプシー達の音楽を聞きながら色彩あふれるファサードを見て過ごしました。写真もあまり良く撮れてないのが残念なんだけど、控えめに表現して「宝石のように」輝くファサードは本当に素晴らしかった。

しばらくしてヴェッキオ宮殿の方に足を運ぶとその前ではオペラコンサートが開かれている。どうもテレビ中継されているようだ。シニョーリア広場にはたくさんの見物客で溢れている。威風堂々の宮殿の前にステージが作られ、大型モニターが用意され何人かの歌手が入れ替わり歌を歌う。シニョーリア広場という舞台はオペラ楽曲にとてもよく合う。しばらくはオペラのアリアが続き、やがてカンツォーネに変わっていった。そのうち日本でもよく聞く「オ~ソ~レミ~ヨ~・・・」が始まった。そのなかの歌詞で「サンタ~ル~チ~ア~・・」という部分がある。僕は次の日ヴェネツィアへ行く。なんだか明日ヴェネツィアへ発つ僕を「シュクフク」してくれてるようだ・・なんて勝手に妄想しながら聞き入っていました(ヴェネツィアの駅の名は「ヴェネツィア・サンタ・ルチア駅」なので)。勝手に一人で盛り上がり、いったんシニョーリア広場を後に、ウフィツィの前を抜けヴェッキオ橋へ向かう。こちらもライトアップがとてもきれいです。

ヴェッキオ橋を歩いた後、一本離れた橋へ行きヴェッキオ橋を遠くから眺めることに。

f:id:fukarinka:20220410024253j:plain

ここはあちら側の輝きとは対照的に、淡い街灯の控えめな光の中、橋にもたれてヴェッキオ橋を望む。ここではさっきまでの喧噪が嘘のように静か暗い。シニョーリア広場のカンツォーネがかすかに聞こえてくる。現実世界を達観するようなこの場所から、ゆらゆらアルノ川に写るヴェッキオ橋を眺めながら「なんて贅沢な時間だろう・・・」と僕はため息をつくのでした。毎度のことながら日本での生活のせせこましさを思い起こしながら。

 

夜の静かなフィレンツェを堪能した後、再び光と喧噪の街を目指す。ヴェッキオ橋をわたり進むと、シニョーリア広場ではまだコンサートが続いていた。サンタマリアデルフィオーレの前のジプシーはいなくなって、ファサードの前は観光客の行き交う声と足音だけがこだまする。 僕はフィレンツェ最後の夜を切り上げ、ホテルの部屋に戻ったのでした。

 

 

cmn.hatenablog.com