シャモニの大自然の姿を
アルプス観光の醍醐味は、壮大な自然に、手軽に誰でも簡単にアクセスできること。ロープウェイや登山電車が嘘のような場所まで万人を運んでくれる。手軽に登って、アルプスの大パノラマを堪能した後、手軽に戻ることもできるのだけど、よりアルプスの自然を身近に堪能するために別のオプション=トレッキング(ハイキング)コースもまた充実しているのです。ここシャモニにもたくさんのトレッキングコースが用意されていて、このときはメール・ド・グラスを起点に歩きでモンタンヴェールからシャモニまで、まずは氷河の谷を歩き、その後山々を迂回してもどるようにシャモニを目指すコースで約10kmくらいの道のりです。
*ものすごい風が
この日、早朝はとても穏やかで気持ちの良い天気で、さっきまでいた氷河の上もとても快適でした。しかし太陽がこの谷を照らし始めてからモンブランの方から「暴力的」ともいえる強風がこの谷を吹き降ろし、僕はこの暴力的な風の中をトレッキングをすることになったのでした。
下の写真ではこの時の「暴力的な風」はまったく伝わらないのが残念。
この谷の奥の方がエギュイーユ・デュ・ミディやモンブランになるのですが、厚い雲に覆われてよく見えません。
*針の峰
明るくなって陽を受けるドリュ針峰(Aiguille de Dru)。氷河の対岸に鎮座する鋭い山です。モンブラン周辺の山々はかなりの確率でAiguille=「針の峰」と呼ばれます。この山々のナイフのような稜線をみるとその所以に納得です。
岩だらけの場所から、緑が根付く地帯まで降りてきました。相変わらず暴力的に風が吹いています。が、相変わらず風は写真で表現できないのが残念。
斜面の緑と氷河の青白のコントラストがとても印象的でした。
針峰群を迂回する折変えし地点。ここから山々の向こう側に入ってシャモニの方へ向かいます。
ここの場所からはメール・ド・グラスと取り巻く山々が一望できます。自分がいかにちっぽけな存在かを思い知らされるとにかく雄大な景色です。
ここでこの景色を見ながら昼食をとります。朝は氷河の上、昼はこの景色が見ることのできる場所で食事というのはこの上なく贅沢な環境です。
*と思いきや
確かにメール・ド・グラスの一大パノラマが見える場所なのだけど、この景色を見ようとすると氷河を降りてくる暴風を真正面から受け止めなければなりません。息をするのも苦しい向かい風で食事どころではありません。なので、大きな岩陰に隠れて風を避け、食事をしました。そうしたら同じように、風を避けて食事をする子供たちにも遭遇。僕と同じように岩陰で風をしのいでいます。
本当はこの景色を満喫しながら食事をしたかったんですけどね。
*一変して穏やかな。。。
山を越えシャモニの街側の斜面に入ると、さっきまで吹き荒れていた風が嘘のようにおさまった。なんだこれ?と思い、少し引き返してみると、氷河の谷側は相変わらず暴風が吹き荒れている。こちら側は、氷河の谷側の状況が嘘のように穏やかに「無風」になっていました。分厚い雲もなければ風もない、太陽が顔を出して日差しが暑いくらい。ほんの数百約メートル移動しただけで、この差はすごい。でも、これが山岳地帯の天候なのです。
ここからは右下にシャモニの街を、左にシャモニ針峰群、正面にモンブラン山群とボソン氷河を眺めながら進みます。
しばらく歩いてシャモニの街が見下ろせるところまで来ました。
*水!
山のこちら(シャモニ)側に入ってから風が止み、日差し強く大汗かきながらのトレッキングになりました。用意していた水も尽きて、喉がカラカラ。そんなとき、ちょうどこの急斜面を流れ落ちる滝というか小川に出会った。
シャモニ針峰群の雪解け水が山の斜面を流れ落ちている。一見してとても透明で美味しそうな水をまさしく天の恵みと、僕はこの川の水を直接流れに口をつけてガブガブ飲んだのです。とても冷たくて、とてもおいしかった(その後お腹も壊すことなく)。多分人生で一番美味しいと感じた水です。
この中のちょうどいい石の上で荷物を下ろし寝っ転がって一休み。空を見上げて水の流れる音を聞きながら過ごす時間はとても贅沢でした。そして、いつまでいても飽きませんでした。
途中、こんな岩から逞しく生える花。
シャモニの方からやってきた子供たちとすれ違う。
暴風注意。
この日、山のこちら側はとても天気が穏やかで、トレッキングコースから見える景色はどこを切り取っても素晴らしい。スイスのベルナーオーバーラントを歩いたときのことを思い出します。あのときは雨に降られ雲に覆われ何にも見えなかった。。。あの時の経験があるので、今日この日のありがたみをものすごく感じるのです。
遠く先にモンブランとエギュイーユ・デュ・ミディへのロープウェイの乗り継ぎ地点、プラン・ド・レギーユが見えてきました。
昨日乗ったロープウェイが前方に見える。
歩きながら何本もロープウェイが通り過ぎて行ったけど、その動きは激しく、ゴンドラは大きく揺れ、その度中から歓声というか悲鳴が中から聞こえてくる。この激しさはスイスにはありません。
プラン・ド・レギーユに到着。
今日もロープウェイは観光客を満載している。その先にケーブルが渡されて見えるのはエギーユ・デュ・ミディだけど、今日は雲に巻かれている。
僕のこの時の記録はこのプラン・ド・レギーユで終わっている。
そのほかの部分は今でも鮮明に覚えているのだけど、このときこの後どういうふうにシャモニに戻ったのか記憶をたどれないのです。今ならスマホで無制限に写真をとって、GPSで経路が記録されいくらでも辿れるものだけど。でもこれも昔の旅の古き良き部分かもしれません。
僕はかねがね「いつか氷河の上に立ちたい、氷河をさわってみたい」と思っていた。だから遠く氷河の表面に人の姿を見つけたときは、迷わずそっちに向かって進みました。そして、ずんずん進んでいくと道が切れた。下を見下ろすとたくさんの人が氷河の上にいる。さらに氷河の奥へ歩いていく人が見えて、さらに奥の方にはいくつものパーティが氷河を歩いていくではないか!!僕の血は最高にたぎることになった。
*命がけ(崖)
道が切れたのは、その先は絶壁だからでした。下を覗いてみると古ぼけた金属製の梯子がいくつもかかっていて、下の方まで続いています。何に迷いもなくこの梯子を降り始めたのだけど、間もなく”これ崩れやしないか?”と軽い恐怖を感じながら、梯子と梯子の間は岩壁の人ひとりがやっと通れる細い道というか天然の段差を通ります。もちろん転落防止の柵などありません、またこの梯子道、1本しかないので時々登りを待つ人、下りを待つ人で渋滞が起こります。こんな風にこのスリル満点のこの絶壁を降ていきました。
*ついに
氷河におり立った。そこはすごい世界でした。
氷河の表面は上から見ると平坦に見えるのだけど、実際はとても起伏に富んでいる。その様子は嵐で荒れ狂う海を瞬間冷凍したような姿なのです。ここはそんな嵐の波間のような場所。早速氷河の表面を触ってみると、氷の表面は思いのほかザラザラ。というのも氷河でも岸辺のこの辺は氷河に削られた岩の破片やら砂やらが氷の表面を薄く覆っているので、いろも灰色っぽく、表面はざらついているのです。
そして岸辺から離れた氷河の中央部はその砂かむりがなく、本来の氷の色に近い白となります。
氷河との境の山肌をみると、氷河が大地を削っているのだということ、氷河の模様の理由がよくわかります。
そしてあちこちにクレバス(裂け目)があったり、氷河表面はとても表情豊かです。クレバスの奥はとても綺麗な吸い込まれるような青。これは雪が圧縮されてできた氷特有の色だとか。滑って落ちた時には何語で叫べばよいか考えながら、滑らないように慎重に裂け目の脇ぎりぎりまで寄って少し身を乗り出して撮ったのが下の写真。
*夢叶うも
グレーに色づいているところ、砂がかぶっているこの辺ならそんなに滑りはしないだろうと思って歩いてみたけど、やはり氷の上であることに変わりはなく、気を付けて歩かないと平坦なところでも滑って転びそう。しかし、あの氷河の中心部の白く輝く所へ行きたくて、今からすればとても無謀だったと思うけど、うねる氷の稜線にそって奥へ向かって少し歩いてみた。でも最初の丘の上り坂ですでにすべってクレバスに落ちそうな危険を感じて立ち止まる。今までいろいろなところに出かけ、遭難しかけたりしたこともあったけど、「ここは危険だ」と野生のカンがささやいたのでした。
残念だけど仕方ない。丘の先で見えない氷河の中心部の方を眺めたあと、すごすご引き返したのでした。でも、その下坂を引き返すときもかなり危険な状態で一歩間違えればクレバスに食われてもおかしくないという具合でしたので、この時の判断は正しかったんだろうな。
この瞬間まで「氷河に立った」喜びでテンション上がってたので気づかなかったのだけど、改めて周りにいる人たちを冷静に見てみると、今更ながら当たり前でみんな重装備の人たちばかり。靴の裏には、氷の上でも滑らないスパイク状の装備がついている。僕のような「観光客です」という格好をした人はまずいないことに気づく。「自然を恐れ敬え」その先に幸せな共存があるということなんですね。
そんなわけで、仕方なく氷河奥地へはあきらめて、氷河の岸辺に戻り、氷河の上、クレバスの横で食事をすることで我慢することにしたのでした。
食事中もいくつものパーティが氷河奥地へ向かって出発していく。さっき降りてきた絶壁の梯子を見れば上の方から人がひっきりなしに降りてくる。僕と同じように氷河にえもいわれぬ魅力を感じる人は大勢いるだろう。
山に降り積もった雪が春になっても溶けることなく氷となり、何十kmという流れを作る。落石やクレバスがその表面にいろいろな表情を付けて、その内側には雪が圧縮されて氷となった本来の深い青が覗かせる。何十年、何百年かけて流れきって雪解け水と一緒に消えていく。僕が今立っている氷は一体何年前にどこでできた氷かを考えるととても暖かいような、守られているような気持ちになるから不思議です。
氷河の奥に進むことはできなかったけれど、ついに「氷河の上に立つ」という夢は叶いました。
満足して、あの壊れかけのはしごの岸壁を登り、歩きでシャモニの街へ向かいました。
帰りに上から見る氷河の姿は、往きと同じ景色をみているはずなのだけど、間近で氷河の中に入って初めてわかったいろいろなことが、今まで見ていたものとは全く違う景色にしていました。
これから歩きでシャモニ針峰群をうかいして、シャモニの街までトレッキングです。
早朝散歩の後、シャモニの街外れから出る赤い登山電車に乗り、モンタンヴェールを目指しました。ここにはフランスで一番大きな氷河「メール・ド・グラス(Mer de Glace 氷海)」が間近に迫り、氷河に触れることができる、そういう場所。モンブランの裾野のジュアン台地を起点に標高差約3000mを11kmにわたって流れ下る壮大なスケールの氷河です。
僕はかねがね「いつか氷河の上に立ちたい、氷河をさわってみたい」と思っていたので、シャモニに来たらモンタンヴェールは必ずいく場所と決めていました。
*昨日でよかった
登山電車に乗る頃はシャモニはきれいに晴れ渡っていて、モンタンヴェールの方向の上空も青空が見えたのだけど、奥の山々、エギュイーユ・デュ・ミディから見える山々やエルブロンネルの方角にはけっこうな雲がかかっていた。。もし今日エギュイーユ・デュ・ミディへ行ったとしたら雲で何も見えなかっただろう。昨日行っておいて本当に良かった。そんな空模様でした。
登山電車はとことこ進み、 針のように尖ったシャモニ針峰群をぐるっと迂回してシャモニの街とは山々をはさんだ反対側まで連れて行ってくれます。そこには壮大なメール・ド・グラスが横たわり、その先端近くに登山電車の終点モンタンヴェールはあります。ここからの氷河と周りの針峰群の眺めは圧巻です。
ナイフのようなドリュ(3754m)から朝日が射す。
*氷河に迫る
モンタンヴェールの駅のはるか下のほうに壮大な氷河が広がっています。氷河めがけてジグザグに道を降りていくと氷河が間近に迫ります。モンタンヴェールの駅から続く道は氷河のすぐ脇まで続いていました。氷河の上ではなく氷河の脇に到着したのです。
下の写真、右側は氷河に削られた岩壁、左が氷河そのものです。
僕は大迫力の氷河に圧倒されました。でも、氷河の上に出ることはできなかった。
残念な気持ちで周りを見てみると、氷河の横壁にトンネルが掘ってあり”氷河博物館(正式名称は知らない)”なる物を見つけました。その中には氷の彫刻が多数ありますといった内容でした。僕は興ざめしてしまって中に入る気にはなれませんでした。ただ、おもしろかったのは、現在の博物館の入り口より10数メートル下流に同じ様な穴が掘られている。氷河は”河”という名がつているだけあって、流れがある。数年前までの入り口がその穴だったようです。
*氷河は流れる?
氷河が流れていることが発見されたのは偶然の出来事でした。氷河の上に置き忘れた椅子が44年後に、4km下流で見つかった。この出来事によって「氷河は流れている」ことが発見され、氷河が1年に90m、1時間に1cm前進していることが判ったといいます。ということは博物館の入り口も2年も立てば200mも動いてしまってそのたびに作り直さなければならないのか?これはこれで大変なことだ。そういえば岸から氷河博物館への入り口は橋がかかっていて、クレーンで動かせる構造になっていた。1日に24cm動いていく入り口のためにこのクレーン式の橋はある。
*あそこに見えるのは?
壮大な氷河だったはずなのに、博物館に興ざめしてしまって、元の道を引き返している途中でした。遙か向こうの氷河の上をよく見ると人がなにやら動いているのを発見。そして道の途中、分かれ道がそちらの方角へのびている。なんの迷いもなくそちらの方向へ、これはもう前進あるのみ。
もうちょっと寄ってみます。
なんと、氷河の上を人が歩いている!
「氷河の上に立ちたい」僕の長年の夢が叶うかもしれない。
アルプスのリゾートでは登山電車やケーブルカーが老若男女問わず万人、を富士山頂より高い標高まで簡単に連れて行ってくれます。
急な斜面もモノともせず、時には岩山をくり抜きトンネルを作ってまで登山電車を通し、時には絶壁のような岩壁の頂上に一本のケーブルを渡してロープウェイを通す。そのおかげでこれらを施設した人々の執念と苦労を、これらを利用するほとんどの人々は感じることもない。みんな「絶景」を楽しみながら、気がつくと標高4000m近い場所に運ばれているのです。
そこでは、とりわけエギュイーユ・ディ・ミディ〜エルブロンネルでは不思議なことが起こります。
*不思議なこととは。。。
シャモニの街からゴンドラごと引っこ抜かれるように2800mも上っていくわけですが、真夏のゴンドラ乗り場では、軽装の観光客に混じってスキー抱えた夏スキーを楽しもうという人が混じる。
そしてロープウェイで到着した先は切り立った岩山の頂上で、その向こうには白銀のバレ・ブランシュの雪の世界がひろがっている。するとロープウェイで登ってきた僕たちは、その白銀の世界を山の稜線をつたって登ってくる完全武装の雪山登山者に遭遇する。
*畳みかけるがごとく
さらには展望台へと岩山から岩山へ渡される小さな橋を歩いていると、そのすぐ横の岩壁にロッククライマーが張り付いていたりする。これ本当にびっくりしました。
一般人にスキーヤー、登山者にロッククライマー。わけがわからなくなります。
一般の観光客もいろいろで夏でも標高3800mを知ってそれなりの防寒対策をしてる人、渋谷のスクランブル交差点にいるかもしれない軽装の若者、さらには寒さをモノとも
しない半袖半ズボンの人、寒さを知らずにブルブル震えてる半袖半ズボンの人。