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パンテオン4 美しきドーム

パンテオンのドームは古代ローマの建築家、エンジニアの手により多くの困難を克服して実現されました。そしてその後二千年もの間この場所に、姿を変えず存在しつづけている。すごいことだ。

僕は前回、ドーム天井実現の最大の問題だった「重量」を克服する手段のひとつが、四角い段々の格間だったことを紹介しました。

そして、この格間には技術的問題を解決するだけではない、もうひとつとても重要な役割があります。

それは「天井の装飾」です。

この「格間」は、天頂のOcculus(明かり取り)からの光によって影を作ります。それも個々の格間の段々の部分で複雑な影をつくり、ドーム天井のローマンコンクリートの表面に、とても豊かで多彩な表情をつくることになるのです。パンテオンの下層部の色大理石の華やかな色彩と模様とは対照的に、色のないコンクリートで形作られた格間は、そこにできる影によってとても表現豊かに天井を飾り、時間によって、季節によって、太陽の光の差し方によって、その表情を千差万別に変えていきます。その様子は派手な色大理石の装飾よりも、むしろ派手と言えるかもしれません。

この格間は半球ドームの経緯に沿って規則的に構成されていて、縦方向には大きさの異なる5層の格間が規則正しくドームを一周するように並んでいます。一つの格間は、一番上の層が3段、その他の層は4段の四角が段々に重なった構造におり、段差の付け方や大きさはその層ごとに少しずつ変わっています。

パンテオンの天井を横から眺めた図

一番上の層の格間は四角の中心を基準に3つの大きさの異なる四角が重なる構成です。

二番目から五番目の層は4つの四角が段差を作っているのですが、その層の高さによって、4つの重なり肩を変えています。この格間内の四角の中心軸のズレは、実際に配置される高さによって、パンテオンを訪れた人が地上から見たときに、格間の陰影がバランスよく見えるように設計されています。

5層目の格間は垂直に近い面に配置されるので地上からは、かなり斜めの状態で見ることになります。地上からみたときに5層の格間の模様が視覚補正がなされるように、4段の格間がバランスよく見ることができるような形にしてあるのです。なので、5層目の格間を単体で、正面から見るとかなり歪な形状に見える。

パンテオンは「人が見たときに、バランスが良い(美しい)と感じる」ことを目的として細部のデザインが決められています。ここのとはヴィトルヴィウスが建築書でギリシア神殿について記述したように、ギリシアで発明、完成された手法で、それをローマ人が受け継いだ。パンテオンも、人が見たときにバランスよく見えるように細部のデザインを調節しているのです。

 

実際にパンテオンの中に入り天井を見上げると、光と影が格間に織り成す模様に圧倒されます。そして、とてつもなく芸術的で神々しい。この天井は不可能を実現した「機能(軽量化)」と「美」が一体となっている。「美しい建築」をギリシア神殿から学んだ古代ローマ人は、建築を美しく見せるために、数値の均等ではなく、「人の感覚」にダイレクトに調和を感じさせるための設計をしました。パンテオンはそれを端的に示す例と言えるでしょう。

 

二千年前に誕生した世界最大級の半球ドームの天井は、格間を効果的に取り入れたことで神々しい美しいドーム天井となりました。ローマ人の美意識にはただただ脱帽するばかりですが、このドーム建築と格間の構造は、建築の手本として後世、そして近代に至るまで、たくさんの建築家に影響を及ぼして、さまざまな建築で模倣されることになるのです。

 

パンテオンを建てた皇帝ハドリアヌスとこの建設に関わった古代ローマの建築家、技術者たちは、このパンテオンが二千年もの間姿変えることなく存在し、その後のたくさんの建築の手本になってきたという事実と、そこに自分たちの名前を刻まなかったということに、静かに控えめに、とても誇らしく思っているだろう。

そして、あの世でみんなで「オレたちいい仕事をしたな」って称え合っている、そんな姿が眼に浮かびます。。。

 

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