cafe mare nostrum

旅行の記憶と何気ない日常を

ヴェネツィア小話 傾いている

f:id:fukarinka:20210710012513j:plainヴェネツィアでの僕の宿は、ため息の橋からすぐ近く。サンマルコ広場まで歩いて3分、すぐ出かけられるホテル・トロヴァトーレ。そしてここはこんな場所なのに財布に優しい。いろいろな意味で良いホテルでした。

おかげで僕は朝昼晩、夜明け前、深夜にサンマルコ広場に出かけ、いろいろな広場の表情を見ることができたんです。

ホテルの部屋は1階。中庭に面した窓の景色は決して絶景ではないけれど、値段からしたら必要十分以上の部屋でした。

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一通り、ヴェネツィアの街を歩いて部屋に戻り、初めてベッドに寝っ転がって、何かの違和感を感じて周りを見回してみた。

すると、さっき閉めたはずのクローゼットの扉が片側空いている。起き上がって扉を閉めるが、閉めた扉はゆっくりと自動的に開いていく。。。

三半規管ちょっとした違和感。まわりをよく観察してみると。。。この部屋傾いている。

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クローゼットも壁にかかる絵の額も、そして天井から下がっているライトも少し傾いている。いや、部屋が右下がりに傾いているので部屋の縦横のラインからいろいろなものが傾いて見えるのです。ビー玉床に置いたら、すごい勢いで転がっていくんだろうという感じです。

 

海の上に存在するヴェネツィアの街は、時折建物の負荷に耐えられず傾いたり歪んだりするところが出てくるわけで、その一つが僕が滞在したホテルです。

そしてもう一つ、目に見えて傾いているものを街の中で見つけました。

どうみてもかなり傾いています。これは斜塔です。

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 どこぞの教会の鐘楼なんですが、このまま倒れてしまいそうな勢いの傾きです。驚きました。傾いている側に住んでいる人々は気が気ではないのではないか?

 

ヴェネツィアは干潟の上に建てられた街。

ヴェネツィア人は街をつくるため、建物を建てる地盤を確保するために、数えきれないほどの木の杭を地面に打ち込んだのでした。建物の、いや街そのものの基礎としてヴェネツィアの地下には夥しい数の木の杭が、干潟のゆるい地層のはるか下にある、硬く安定した地層まで隙間なく打ち込まれているんです。

そんな土地なので、普通の街よりも土台が不安定なところが多い。

いや違うな。。。発想の順番としては、そもそもこんな干潟の上に建物なんてこと自体がおかしくて、そんなところに家や教会を建てて地盤沈下や傾くなんてことがほとんど起きず500年も1000年も存在してるというのが、奇跡的にすごいことであり、どちらかというと「よくぞこんな場所にここまで安定した土台を築いた」という表現の方が正しい。ヴェネツィア人がいい加減な人たちであれば、そこらじゅうが傾いて、今ここにこの奇跡の街は残っていなかったでしょう。

 

僕は傾く部屋に毎晩帰り、その度にこの街の凄さを実感するのでした。。。

 

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