cafe mare nostrum

旅行の記憶と何気ない日常を

ヴェネツィア20 夜のサン・マルコ広場

 f:id:fukarinka:20210626115220j:plainサンマルコ広場の夜の美しさはまた格別でした。

サンマルコ寺院や広場を囲う列柱廊のライトアップ。列柱廊の途中には、ところどころぶら下がるランプのようにカフェの明かりが強く輝く。

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カフェには広場に面したステージが設けられ、お抱えバンドがいろいろな音楽を奏でている。バンドはストリングスとアコーディオン、ピアノ中心の4,5人編成が多い。柔らかな風とともに聞こえてくる音楽は目に映る景色とともにとても心地よいものだった。

 

いまだ大勢いる観光客も様々で、それぞれ気ままに過ごしている。なかでも音楽が好きな者はバンドのそばに集まってくる。眺めてみると、あるカフェのバンドは人だかりができており、別のカフェでは人もまばら。集まる客の数にばらつきがあるようだ。耳を澄まして聞いてみると、人が集まっているところというのは有名な映画音楽、世界的にヒットしたポップスなどを演奏しているようだ。しばらくすると、人の少なかったカフェのバンドメンバーが演奏をやめ、なにやら相談している。そして再び演奏始めると、その当時世界中で大ヒットだった映画「タイタニック」のテーマが始まった。気がつくとさっきまで閑散としていたこのカフェの前に人だかりができていた。

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といった具合に有名な曲が演奏されるたびに人の波があちこち動くといったふうで客観的に見ているととてもおもしろい。かく言う僕も自分の気に入った曲が流れるとあっちへふらふらこっちへふらふらしていたのですが。。。。でもやっぱり、聞こえてくる音楽はほとんどがアメリカ音楽。そう、ここはヴェネツィア、イタリア。「アメリカ人観光客のおかげでヴェネツィアに悪趣味が蔓延している」と塩野七生さんが著書の中で嘆いていたのを改めて思い出した。そういえばサンマルコ小広場(海に面したところ)のカフェではジャズバンドが演奏してた。これもアメリカ。「悪趣味」かはともかく「アメリカ」が相当蔓延している。でもサンマルコ広場のこの美しさは、正直もうどんな音楽か聞こえてこようと関係ないってほど素晴らしかったのです。

 

 そのうち広場のあちこちの排水溝から水がゆっくりあふれてきた。潮が満ちて広場に広がり始めたのです。潮の勢いは静かで、でも着実にその範囲を広げ、やがてカフェの周りや広場のあちこちに大きな水たまりを作っていった。その様子はモン・サン・ミシェルの朝の満潮への移行の時のよう。大半の人は広場を去ったが、カフェでは水に浸かったいすに座り相変わらず音楽を楽しんでいる人がいる。水たまりに飛び込んではしゃぐ人たちもいる。

僕は水たまりをよけ、広場の中央に座り込み「サンマルコ劇場」の舞台をゆっくりと眺めていました。僕の前にできた大きな水たまりに目を落とすと、その水面にはサンマルコ寺院がゆらゆら映っている。 あまりの綺麗さに思わずため息がでる。

*逆さサンマルコ寺院

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広場の真ん中、敷石の上に座り込みこの幻想的な姿を描き留める。あっちこっちのカフェから、優しい音楽が聞こえ、目の前にはサンマルコ寺院が水面に映る。人々は水をよけるように歩いていく。とても贅沢な時間でした。

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その間も水たまりは徐々に大きくなっていき気がつくと僕が座っている場所は離れ小島になりかけていました。長い時間過ごして、スケッチもして満足した後、「今日はこれまで!」と立ち上がり、すっかり人が減った広場をばしゃばしゃ水たまりをすすみ離小島から本土たどりつく。そしてサンマルコ劇場を後にしました。

小広場から海に出てホテルへ向かいました。海側もかなり潮が満ちて歩道が半分海につかっていた。こんな光景もヴェネツィアならでは。

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サンマルコ広場から歩いて3分のホテルまで行く道で、「溜息の橋」の前を通ります。夜の淡い気怠い光に照らされる溜息の橋はぞっとするような存在感でした。

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海が引き起こすちょっとした出来事は、ヴェネツィアの魔法にかかって幻想的な風景に姿を変えるのです。ヴェネツィアはその街の美しさだけではなく、海に浮かぶ不思議さと合わせ、こういった海に絡んだいろいろな「ならでは」が人々を惹きつけ続けるのでしょう。

世の中には「○○のヴェネツィア」称される場所がいくつかあるけれど、ここだけがヴェネツィアであってヴェネツィアのような街は二つとない、とこの日、僕は思ったのでした。

 

次の朝、夜明け前に街に出て、まず真っ先にサンマルコ広場にむかった。潮が引き、昨晩の水たまりもすっかりなくなって、鳩も、人もいない広場には僕の靴音だけが響く。「世界の大広間」、「サンマルコ劇場」を独り占め。次回はそんな早朝のサンマルコ広場を。

 

 

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