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旅行の記憶と何気ない日常を

ロンドン小話 〜イギリス人の不思議

伝統と格式を重んずる紳士の国。古代ローマを標榜して大英帝国を築き上げた国。ビートルズが生まれた国、グラムロック、パンクロックの生まれた国、たくさんの世界的なアーティストが生まれた国。そしてサッカー、テニス、ラグビーと言った近代スポーツの生まれた国。そしてイギリスサッカーといえばフーリガン。そう紳士とフーリガンとパンクが共存するのがイギリスという国です。イギリスという国を30年ほど横目で眺めてきて、つくづく不思議で面白い国だと思うわけです。

 

僕が初めてイギリスに行った時、まだイギリスに対する予備知識がなかったのだけど、イギリス国内どこを歩いても、車で動いても、イギリス人の車の運転を見て、「ここは確かに紳士の国だ」と感じました。車で曲がろうと待っていたり、脇道から出ようと止まっていると、まず間違いなく、止まってくれて笑顔でどうぞと手で合図を送り譲ってくれる。ドアがあれば、先に入って開けて待っててくれたり、先に入れてくれたりは当たり前、なんなんだこの余裕は?あまりの紳士っぷりに気持ち悪さすら感じるほどだったことを覚えています。

車社会でここまで紳士な国は他にあるのだろうか?当時は自分も車に乗り始めた頃で、周りには車に乗ると人格が豹変する人も多かったし、あの「車」という閉鎖空間に入ると気持ちが大きく、過激な方向へ向くというのが当時もよくわかっていた僕は、余計にイギリス人の車マナーの良さには驚愕したのでした。確かにここは「紳士の国だ」と。

その一方で、

ロンドンのピカデリーサーカスを歩いていた時、向こうから歩いてきたバリバリのパンクのお兄さんが、突然、「パンクは好きか?!」と聞いてきた。僕はとっさに「もちろん大好きだ!」と叫んですれ違った。思えば彼もイギリス人。あんな格好であんな喋り方だけど、車に乗ったら紳士なんだろうか?と想像すると面白い。

また、

2002年サッカー日韓W杯の時、イングランド代表のサポーターが大勢日本に押し寄せてきた。僕の街でイングランド代表の試合があったのだけど、サッカー観戦ではイングランドサポーターは大暴れ。でもこの人たちは、あの「紳士の国」からきた人のはずだ。でも、サッカーの試合で一喜一憂、憂いて暴れる姿と、あの車の中で見せた穏やかな笑顔とはどうしてもつながらない。

紳士とパンクとフーリガンは別人の個性なのだろうか、それとも同じ人の多面性なのだろうか?

伝統と格式の国にあって、子供の頃から「紳士たれ!」と育てられてきた人が、心の自由を求めてパンクに走るのだろうか?ばらつきの端っこの一部の人がフーリガンとなるのか?。。。考えるとキリがない。

 

そこでちょっとイギリスという国の成り立ちを辿るとそのヒントが少しだけ垣間見られるような気がする。

日本人がイギリスと呼ぶのは正式には"United Kingdom of Great Britain and Northen Ireland" 直訳すると「グレートブリテン北アイルランド連合王国」。これはイングランドスコットランドウェールズ北アイルランドの4つの王国の集まりを意味しています。ユニオンジャックと呼ばれるイギリス国旗は王国旗の合体。イングランドスコットランドアイルランドの国旗がユニオンしたのが、あのユニオンジャックということ。あれ?ウェールズは?というと、ウェールズは早くからイングランドに組み入れられていたのでイギリスの成立時点では3つの王国の旗が使用されたという歴史がある。中世から近代にかけて、いがみ合い争ってきた王国が一つの国となる。異質な相手も受け入れることで、United Kingdomは生まれたわけです。

イギリス人によれば、「大英帝国の歴史はローマ人がグレートブリテン島に入った時から始まる」という。これは紀元前1世紀にユリウス・カエサルガリア戦役を繰り広げた最後にイギリスに渡っていて、ローマの支配下となった時点が自分たちの起源、大英帝国古代ローマを起源としている、という考え方。

古代ローマがどういう国だったかというと、その大きな特徴の一つが「寛容」の精神です。征服地の異なる宗教・文化・技術を受け入れ同化・進化していったのがローマという国でした。ローマ文化という大きな柱を持ちながら、支配地域の自治や土着の宗教を許し残して受け入れていったのが古代ローマの社会でした。

ローマが支配した地域は現在の北欧除くほぼヨーロッパ全土、アフリカ北部、中東に渡り、地中海をすっぽり包み込む一大帝国を築いていました。その中でイギリスは最も遅くにローマ化された、いわば当時ヨーロッパで一番遅れていた地域でした。そのイギリスが近代になって産業革命によって国力を増し、植民地を広げていき「大英帝国」となった時、歴史上の後進国であることを拭い去るべく、ローマを起源に持つ輝かしいローマのような国家になろうとしたのです。そこにはローマ帝国と同じ「寛容」が広く深く行き渡った(のかな?)。

この辺が紳士でありながら、パンクやフーリガンも同居する不思議で面白いイギリス人社会が出来上がった理由なのではないか、と想像するのです。

 

それと"United Kingdom of Great Britain and Northen Ireland"の何が「イギリス」なのか?どこをどう切り取っても「イギリス」にはならないが。

これはこれで不思議だったのだけど、日本人が言うイギリスは、イングランドポルトガル語読みがさらに訛って「イグレス」になったり、オランダ語読みがさらに訛って「エゲレス」になったりした結果のようで、日本でのイギリスと言う呼び方もかなり特殊で、紳士とパンクとフーリガンとは関係ないけど、フランス、ドイツと比べて、何かイギリスはその呼び名からもちょっと特別な雰囲気を醸している。

 

最後に不思議なイギリス人の好きな点。

深いユーモアとロマンを持ち続けているところ。

スコットランドネス湖ネッシーは実在することを前提に大真面目にネス湖を盛り上げてる。ネッシーを否定するのは大体外国人の仕業。そんな学術研究結果もなんのその、どんな研究報告だろうと、ネッシーはいる。いなくてもいる。

そしてシャーロックホームズ。(小説の質の高さに寄るところもあるけど)シャーロックホームズは間違いなく実在した人物。ベーカー街221Bにはホームズが生活した部屋がある。ホームズは実在した世界最高の探偵なのだ。

というようなことを大面目にやってるところ。僕も死ぬまでこうありたいと思っている。

 

 

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