カエサルは新しい国づくりに向けて、一気に事を進めていきます。
内戦が終わってから、一つ一つを対処していったのではなく、内戦を進めながら同時にあらゆる改革の準備を進めていたかのように、言葉通り「一気に」さまざまな事柄がほぼ同時に進んでいくのです。その様はまるで全て決まってるから「あとは実行するだけ」、そんなスピード感でした。
パクス ロマーナ
これら事項は、広大な領土の統治と様々な宗教や文化を持った多様な属州を効率よく束ねていくために必要なものであり、その先にカエサルが見据えていたのは「パクス・ロマーナ(Pax Romana / ローマによる平和)」の実現で、そのための「帝政」という政体でした。
カエサルが実行した改革はざっと以下の通り。
◼️暦の改訂
◼️市民改革
・解放奴隷への公職の門戸開放
・教師と医師のローマ市民権授与
・シチリア、南仏属州民へのラテン市民権付与
◼️行政改革
・元老院議員600人→900人へ増員
・属州再編
・法務官、会計検査官、按察官の増員
・失業者と退役兵の植民
◼️経済改革
・国立造幣所の開設と造幣権を元老院から剥奪
・金銀換算率の固定化、利息率の上限設定
・属州税率の改革
・徴税機関公営化
◼️公共事業
・首都再開発 カエサルのフォロ、フォロ・ロマーノ再開発、セルウィウス城壁撤去
・北イタリア属州の都市計画
・カルタゴ、コリントの再興
・地方都市の整備、街道メンテナンスなどの様々な公共事業
◼️宗教
・最高神ユピテル、妻ユノー、ミネルヴァをローマの主神とすること
◾️司法改革
・センプローニウス法の復活(公正な裁判なしに人は裁かれない)
・元老院最終勧告の廃止(有能な人材を国賊として潰してきた仕組みの廃止)
これら項目からは、広大なローマ文化圏での安定した経済活動の保証、優秀な人材が登用され報われる社会、快適な暮らしのためのインフラ整備の実現であり、それらを実現するための政治体制の再整備という意図が、はっきりと見て取れます。
カエサルの帝政
紀元前44年2月、元老院と市民集会はカエサルを終身独裁官(dictātor perpetuo)に任命します。この終身独裁官の位置付けは「市民の第一人者」であるとして、これまでの市民集会の代表である護民官は廃止されました。独裁官は第一の市民として全権を奮い、元老院と市民集会をその補助機関として国政を行う、実質的な帝政がここに完成します。帝政ローマ、カエサルによるローマ帝国は「集権と分権」を併用する統治。ローマ全土に一貫する仕組みや法律をベースにした中央集権的な部分と、ベースを持ちながらも、もともと地域に根ざした統治方法や宗教や文化を温存する分権部分が共存する。そうしてローマ世界の秩序と安全保障を確立していく方法をとります。
現実を見たカエサルは地中海・ヨーロッパ全土に広がる他民族多文化国家を統治する方法を見出した。それが「カエサルの帝政」でした。
共和制から帝政へ、一見派手に、でも静かに切り替わっていく。紀元前45年〜44年はその最初時期でした。この必然とも言える流れはこの後、何が起ころうとも留まることなく進んでいくのです。