ある年、ヴェネツィアからミュンヘンへいく夜行列車で僕の入った6人用コンパートメントにはヴェネツィア観光帰りのドイツ人のおばあちゃん集団とミュンヘン在住の日本人が一人。 この偶然乗り合わせて日本人の方に、ミュンヘンに着いたらでオクトーバーフェストへ行くように強く勧められた。
オクトーバーフェストとはミュンヘンで毎年この時期に開催されるビールの祭りだそうで、曰く、「行き方を教えるからとにかく行って来い」と。
そこまで言われたらどんなものかと好奇心に駆られ、とにかく行ってみることにしました。
その日の予定は、その夜行列車がミュンヘンに着いた朝、いつものように少しだけミュンヘンの街を歩いてからホーエンシュバンガウへ行き、1日山を歩いて夕方に再びミュンヘンに戻り、夜行に乗ってベルギーのブリュッセルへ向かうという予定にしていたので夕方のミュンヘンの街歩きをオクトーバーフェストに変更することにした。
その日1日ホーエンシュバンガウで過ごした後ミュンヘンに戻り、オクトーバーフェストに向かうべく教えてもらった地下鉄に乗り、教えてもらった一つ目の駅で降りる。
駅の中からすでになんだか異様な雰囲気が漂う。そして外に出た瞬間「壮大な祭り」の景色と酒の匂いが飛び込んできた。
大勢の人と電飾に飾られた大規模な夜店の洪水、あちらこちらに見え隠れする観覧車やらジェットコースターなどは「ここは遊園地なのか?」と、しばらくなんだかよくわからず。
しかし地面を見ると、ここが広大な駐車場のようだ。つまりこの祭りのために、何かの駐車場一面に即席で無数のビアガーデンを建て、たくさんの遊園地施設を、これまた即席で作ってしまっている。この規模たるや日本ではありえない。
広大な会場を酔っ払いに混じって練り歩き、オクトーバーフェストの全体がわかってきて驚いたのは、その「遊園地」度の激しさ(?)でした。メリーゴーランドくらいの一つ二つはいろんな場所でよく見かけてきた。観覧車もたまに突然街に現れることはある。でも、ジェットコースターやその他、絶叫マシン系の即席バージョンをこれだけの規模に展開するのを見たのは初めてだった。規模といい、豪快さといい、安全基準等うるさそうな日本ではとてもできない祭りだろう。
ビールの祭りなので、これまたでっかい即席ビアホールがあちこちにあり、当然のことながら酔っぱらいもそこら中にいる。会場全体がハイテンションで一種異様な雰囲気が漂う。当時ドイツマルクもほとんど使ってしまったし、アルコールは元々あまり飲めない僕は、変な酔っぱらいに絡まれはしないかと半ばドキドキしながら、体のでかいゲルマン人の酔っ払いが絡んできたらどうやって逃げるかを考えながら、至って冷静にオクトーバーフェストを傍観した。いや、楽しんだ。その場の「雰囲気」を味わって、見て、ただ歩き回っているだけでもかなり楽しめました。一人でシラフで歩いてると、自分の方がおかしいのかと錯覚してしまいそうになる。いや、こんなところに一人で来て酒も飲まないで歩いている方がおかしい。
オクトーバーフェストは1810年のバイエルン王子とザクセン王女の結婚祝いのお祭りが始まりと言われています。広大な駐車場と思っていたここは「テレージェン・ヴィーゼ(テレーゼの草原)」という名の広場でした。恒例となったこのお祭りはザクセン王女の名「テレーゼ」にちなんだこの広場で行われるようになったそうです。
元々バイエルンの王子と王女の結婚祝いだったお祭りが、回を重ねるごとにいつの間にか「一大ビール祭」となり、今では近隣諸国からも多くの客が訪れるバイエルンの名物祭りへと変貌したのでした。そして9月から10月にかけての秋のお祭りということで「オクトーバーフェスト」と呼ばれるようになったそうです。
ブリュッセル行きの夜行列車の時間が近づいて、祭りの会場を後にした僕は再び地下鉄に乗りミュンヘンへと向かった。地下鉄の駅に入ると、浮かれたオクトーバーフェストの会場が嘘のように、人も空間も落ち着きを装っていたようでした。赤ら顔の大柄なドイツ人が何人も、真面目な顔して地下鉄に乗っていたのがおかしてくてなりませんでした。
P.S. あれから何年も経ってから、日本でも「オクトーバーフェスト」というイベントを見かけるようになった。規模は全然違うけど、秋ににこの名前を聞くたびに、あの時シラフで歩いた大酔っ払い祭りのことを懐かしく思い出します。