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ルーブル美術館6 三つの至宝 サモトラケのニケ

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僕がルーブルの中で一番好きな作品。

ルーブルの気品あふれるダリュ階段の踊り場に展示される勝利の女神「ニケ」の像、「サモトラケのニケ(Victoire de Samothrace)」。

 

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このサモトラケのニケは、制作年が紀元前3世紀とも紀元前2世紀とも言われ、作者は不明。いろいろな歴史的記録をパズルのように組み合わせると、ロードス島の人々が戦勝記念に作ったもの、らしい(諸説あり)。

出自はともかくその実物を前にすると、「いつだれがなんのためにつくったか」なんていうことはどうでも良くなってしまいます。それほどその造形はすばらしく、その世界に吸い込まれてしまいます。

両手を上げて翼をおおきく広げて勝利を祝福するニケ(今は頭も手もないけど)。その衣は体に纏わり付き、風を受けてたなびいている様子はまるで本物が目の前にいるような、風がふいているようなそんな錯覚すら覚えてしまうほど。

パルテノンの彫刻群と並んでギリシア彫刻の、というか人類史上最高の作品といって良いと思う。 

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このニケの像、発見されたのは1863年ギリシアエーゲ海の島、サモトラケ島。当時のフランス領事だったシャルル・シャンポワゾという人物が発見したと言います。しかも発見されたのはバラバラの状態で、最初に胴体の部分。そしてさらにバラバラの状態になっていた翼、その他がみつかったときは118の断片でした。

その状態(ばらばら)でこの彫刻の価値を見抜いたというのは、すごいと思います。このころはパリ万博の直後、ナポレオン3世によるパリ大改造により華やかなパリが生まれるころ、多くの芸術家がモンマルトルに、文化人がカルチェラタンやサンジェルマンに集まり始めたころ。そんな時代背景にフランス人の芸術に対するアンテナが非常に敏感になっていた時期と言えるかもしれません。そんな時にこの「ニケの像」が発見され、ばらばらの状態でルーブルにやってきたのです。

118の断片はルーブルの修復員によって復元されて、1883年からこのダリュの階段に展示されているのです。

断片をつなぎ合わせ修復完了したら、重さが28tにもなっていた。ルーブルはどうしてもこのダリュ階段に展示したかった。この階段踊り場を特別な鉄骨で補強してまでこの場所にこだわった理由は、ルーブルでこの空間に入るとわかります。ニケそのものと融合して素晴らしい展示空間になっている。

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 2018年のこの日はメーデーだったこともあり、ルーブル全体が大混雑。ダリュ階段もすごい人でした。

 

下の写真は1997年ころ

朝一番にルーブルに入った時の写真です。人も少なくゆっくり鑑賞することができました。名品をゆっくり鑑賞したいと思う場合、やはり朝一番をお勧めします。

 

この日僕は丸一日ルーブルで過ごしました。丸一日星の数ほどの美術品と格闘して、この時初めて美術品を見るというのは結構脳ミソと体力を使うんだと知りました。夜にはヘトヘトに精魂尽き果てホテルに帰ったのを覚えています。

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 サモトラケのニケを時代を追って見てみます。

これは初めてルーブルに入った1991年。造形はあせることなく素晴らしいのだけど、いま見直してみると、結構汚れていたんですね。。

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こちらはその5,6年後。修復されたらしくすこし綺麗になっていました。

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 2018年。グランルーブル計画が終了し、パリの街全体もいっしょに綺麗にされた様子。

今まで見たことのないような美しさです。改めてこの作品の素晴らしさを実感したというか。ここで気づいたことが、台座となっている船の舳先の彫刻がかなり修復というか復元されている。。。f:id:fukarinka:20200605173327j:plain

 

フランス絵画の紅いルーブルから、ダリュ階段のサモトラケのニケが見える。この構図も僕は結構気に入っています。フランス絵画を突き抜けた先にダリュ階段。19世紀フランスと紀元前2世紀ころのギリシアエーゲ海がつながる空間です。

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ルーブルには30万点もの作品が収蔵されていて、常設展示もすごい数、そしてすごい質です。ひとつひとつ100%で観たいのだけど、とても脳味噌がついてこれず、特に時間があまりない時はかなりの数の名画、名作をボーッと観てしまう、ということになってしまいます。

 

でもその中にあっても、サモトラケのニケが視界に入ると一気に芸術脳が覚醒して、アドレナリンが全開になる。それほどの存在感がこの作品にはあります。

 

3つの至宝とよばれる作品は大勢の人が見にきて、多くの人が感嘆して、多くの人が見たことの証明をつくって去っていきます。それはルーブルの、「どんなに時間がなくてもこれだけは観てね」という戦略でもあり、やはり作品そのもののオーラというか、時代を超えた力というかそういうものを感じずにはいられないんです。モナリザ然り、このサモトラケのニケ然り、人類最高の芸術作品たちは見えない何かを放っている。優れた作品は建築もそうなんですが作者の魂が作品を通して話しかけてくる、訴えかけてくる、そんな気持ちにいつもなります。

 

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