cafe mare nostrum

旅行の記憶と何気ない日常を

欧州列車の小話 〜クシェット

ヨーロッパ旅行で安く効率的に移動するために、いつも夜行列車を多用した。そして大抵の場合「クシェット」という簡易寝台を利用した。寝てる間にたくさん移動して、朝起きると次の国の次の街へ、確か一晩2〜3000円と安く手軽に利用できたので、貧乏旅行にはうってつけ、何度も利用した。

クシェットは一つのコンパートメントに両脇に3段ずつ、六人分の簡易ベッドがあり、シーツとぺったんこの枕だけ貸してくれる。一応ベッドごとにカーテンがあるので、最低の低くらいのプライバシーは確保される。そこに老若男女関係なく割り振られ一晩目的地までを共にすることになる。

 

クシェットの思い出1

あるとき、インド人の大家族(両親と下は1歳からの5人兄弟7人家族)。僕以外の5つのベッドと床を占拠された。ベッドが足りないので父親がベッドではなく公共の床で寝ていていた。夜中に3段ある一番上のベッドに寝ていた子が寝ぼけて床で寝ていた父親の上に落ちてきて、深夜の小さなコンパートメントが大騒ぎになった。

 

クシェットの思い出2

ブリュッセルからシャモニへ行く時に利用した夜行でのこと、60代、いや70代のおじいさんが親しげに話しかけてきてくれた。ポーランド出身のこのおじいさん、僕はシャモにまで、おじいさんはその先の村まで行くということで、シャモニまで一緒にやたら親切にしてくれた。夜行を降りてローカル線に乗り換えた時、先に乗り込んで僕の席までとってくれた。戦争の時の話や、シャモニの山の話を色々教えてくれてた。この時の話はまた別の機会に。

 

クシェットの思い出3

ベルギーへ帰る夜行列車、車掌が(本当に車掌か?)ブリュッセルについてすぐデートに出かけなければならないので、遅くなれないと打ち明ける。一番端の車両の端のコンパートメントにいた僕はなんと朝5時に叩き起こされ、有無を言わせずシーツと枕を奪われた。ヨーロッパを旅しているとこんなこともある。。。

 

クシェットの思い出4

夜出発駅でいつも僕は窓から少し顔を出して、今までいた街を眺めながら過ごす。ある時は、修学旅行の子供達に混ざっての出発だった。中学生くらいの年頃の子供たち、ホームには親たちが。出発時間まで子供も親も泣く。まるで今生の別れのような感動的な別れのシーンだ。列車は動き出して間も無く、子供たちはケロっとして旅を楽しむ。思ったより騒がしくない。と、思ったらちゃんと先生が目を光らせていたようだ。

夜行列車でみんなで旅行。羨ましい。

 

他にも7歳ひとり旅の少年と一緒になったり、ドイツ在住の親子からドイツ人のおばあちゃん世代の話を聞いたり、列車の旅というのは車内で出会いがあり、色々なことが起こる。その一つひとつをよく覚えている。

 

夜行列車の旅で好きなのは、朝目が覚めると昨日の夜とは全く違った景色が広がっていて、どんな天気でも朝のひんやりした空気がとても爽やかに迎えてくれる。雲ひとつない朝日溢れる空、シトシト雨が降る雲が立ち込める朝、霧に包まれた朝、まだ薄暗い中、川の流れる音が聞こえる谷。夜行明けの朝というのは何か特別な空気があったな。

 

またいつか、ヨーロッパでクシェットで動き回りたい。体がカチコチになりそうだけどね。。。