「ホーエンシュバンガウのノイシュバンシュタイン城」
この長ったらしくて言いづらい、なかなか覚えられなかった名前。
ノイシュバンシュタイン城を知ったのは中学生の頃。まだ修学旅行先より遠くへ行ったことのなかった頃、ふと開いたヨーロッパ旅行のパンフレットにあった写真に目がとまったのでした。今でもあちこちでよく目にするその風景は、こんな感じ。
湖とアルプスの山々をバックに佇むノイシュバンシュタイン城。
その当時はどこの国の何という建物かもわからずに、でもその姿に魅了されて、いつかそこへ行って同じ風景を直接見てみたいと思ったのでした。以来、ノイシュバンシュタイン城は僕の「死ぬ前に見ておきたいものランキング」の中で常に最上位にありました。
ノイシュバンシュタイン城が南ドイツにあることを突き止め、時間とお金とその他諸々の条件が整い、ついにホーエンシュバンガウへ行くことができたのはその10年後。
ミュンヘンからローカル線でフュッセンまで行き、さらにそこからバスに乗り森を抜けて行きます。森が開けてシュバンガウの平原に出た時に、バスの車窓からはじめてこの目で見たノイシュバンシュタイン城は、山の中腹の深い緑の中にたたずむ、横からの景色。バスの中からその姿が見えた瞬間、鳥肌が立ちました。初めてみた写真の姿とは違う景色でしたが、周囲の自然を纏った姿の美しさは僕の想像以上だったのです。
どこへ行けば「あの景色」を拝むことができるのか。ガイドブックにはその記述がありません。
僕は最初テーゲルベルクに行けば、あの姿が見える場所があると予想しました。ホーエンシュバンガウの地図で辿るとテーゲルベルクのロープウェイのコースはちょうど城を正面から眺められる角度で走っている。なので最初は山のトレッキングというより、あの景色が見られるはずだと、ロープウェイに乗ってみたのです。
このロープウェイに乗ると必ずノイシュバンシュタイン城側に陣取ります。初めて乗った時は、あの景色を拝める、とハイテンションで外を眺め、カメラをそちら方向に向けて、ちゃんとピント合わせできるかリハーサルを何度もしました。
いよいよ動き出し、ゴンドラは徐々に高度を上げていきます。
そしてロープウェイはだんだんと城の正面に入る。
地図で予想した通り、高さも角度もいい感じになってきた。
そして、あとすこしで城の正面、旅行パンフでよく見るあの高さ、あの位置になる!
と思ったその瞬間、突然岩山が僕の前に現れるのでした。
ギリシアのメテオラにあるような、ロンドンの30セント・メリー・アクスのような、新宿の東京モード学園ビルのような岩山が、よりによって最高のタイミングで立ち塞がったのでした。
なんということでしょう。。。。
前半のハイテンション、期待渦巻く状態から、一気に奈落の底に落ちたような状態でロープウェイをおりました。あまりの落胆に、そのまま下りのロープウェイに乗って帰ろうかとも思ったのですが、ホーエンシュバンガウまでのトレッキングコースがあるのを見つけ、歩き始めたのでした。
あの景色は寸でのところで、見ることはできなかったのだけど、テーゲルベルクからのノイシュバンシュタイン城の眺めという大きな宝を見つけたので、最初は落胆したものの大満足でホテルに帰ったのでした。そしてホテルでフロントに尋ねてみた。土産用に置いてあったあの景色の絵葉書を指差して、この景色はどこから見ることができるのか?
答えはこうだった。
「空の上から」
なるほど、それはその通り。
このとき見つけたトレッキングが楽しくて毎回、テーゲルベルクのロープウェイに乗り、ノイシュバンシュタイン城を眺めるのだけど、ロープウェイで上がるときに毎回、城が見える側に陣取り、最初に乗った時の心の中を再現する。
「後もう少し、後もう少しであの景色が!見える!見えるかもしれない!」その瞬間、岩山現る。心の中でつぶやく「やっぱりね」。 わかってはいても徐々にあの景色に近づいていくあの思わせぶりなロープウェイの車窓をみていると、分かっていても気持ちが昂ってしまうのです。
「もしかして今年は見えるのかも!?」と。もちろんそんなことはないのだけど。
いったいどうすればあの景色が拝めるのやら・・・
死ぬまでに拝むことができるかな。
最後にノイシュバンシュタイン城を見てからもう20年も経ってしまった。
あの頃から、僕には色々な変化が起きて、なかなかホーエンシュバンガウに行くことはできなくなった。老後、たくさん時間ができるようになったらまた、行かれるかもしれない。秋の紅葉に包まれた城、朝靄に浮かぶ城、もっといろいろな季節に、もっといろいろな時間にこの城を見てみたい。