モン・サン・ミシェルを包む干潟は干満の差が15m以上とも言われ、時間によって周囲の景色がずいぶん変わります。本土と繋がる道などなかったその昔は干潟を渡って修道院に向かう巡礼者が何人もが満ち潮に飲み込まれて命を落としたと言われ、ここは「魔の海」と恐れられていました。
そんな魔の海ですが、潮が引くとこんな風に遠くまで歩いて行かれます。
この年、ホテル・ラ・メール・プーラールに宿泊し見晴らしの良い屋根裏部屋にいた僕は、朝景色の様子の違いに気づきました。一本道の両側にあった駐車場が半分消えて、いつの間にか車は高い道の上に避難されていました。これが干潟の満ち潮です。
モン・サン・ミシェルの干潟に出ます。だいぶ潮が上がってきています。
潮はこの乾いた台地にも徐々にゆっくりと押し寄せてきます。そこで耳を澄ますと、「プチプチ、プチプチ」と小さな音が周り中でするのです。潮が地面を覆うとき、台地のひび割れに残った空気が外に出るときの気泡が弾ける音です。
「潮が迫ってくる緊迫感」とは似つかない、とても面白い、かわいい音がそこら中でなっています。
何も知らずに湾を渡り始め、その途中でこの勢いの満ち潮に遭遇してしまえば、ひとたまりもないでしょう。魔の海に飲み込まれて命を落とした巡礼者が何人もいるということが頷けます。
地面をよく見ると、干潟特有の砂とも土とも言えない地面にちょっと肉厚のあまり見たことのない植物が生えています。塩分濃度の高い潮水でも育つ塩生植物たちです。
昨日の昼間緑の台地の下の方にあった海面が、
今ここまで海水が上がってきました。もう少しでここも水に浸かります。
潮に飲まれる前にモン・サン・ミシェルへ戻ると、下の駐車場は完全に水没していました。
入り口である前哨門も木の橋をわたらないと辿り着けません。道路標識の埋もれようが潮満ちているレベルを教えてくれます。
満潮のピークを過ぎると、徐々に潮が引き始めます。モン・サン・ミシェルの周辺を水没させた潮はこのあとはるか18km沖まで引いていくそうです。潮の満ち引きを目の当たりにすると、
するとすかさず、除水車(除泥車?)がやってきます。
これからまた大勢訪れる観光客のバスや車を停めるために急いで水を掃き出しています。
こうして何事もなかったかのように、モン・サン・ミシェルの1日が始まるのです。
潮が引いたモン・サン・ミシェルの干潟は歩き回ることができ、城塞の外側をぐるっと一周することが出来ます。ところどころ水分がのこってふかふかだけど。
聖オヴェール礼拝堂
モン・サン・ミシェルの外側の小さな岩の上に建てられた、小さな礼拝堂です。12世紀、無骨な石を積み上げてつくられました。正面の切り妻の上に聖オヴェールの像が立っています。
観光客の押し寄せるモン・サン・ミシェルの中であまり訪れる人も少ない、質素で素朴な礼拝堂です。
自然とともにモン・サン・ミシェルは存在します。そこでは観光と信仰が、自然の猛威と逞しく共存していました。
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