cafe mare nostrum

旅行の記憶と何気ない日常を

ローマ小話 ハンニバルとスキピオ

寛容を旨とするローマ人が唯一完膚無きまで叩き潰した国があります。当時強大な経済大国として地中海に君臨したカルタゴ(現在のチュニジア)です。

歴史上ポエニ戦役と言われるローマとカルタゴの戦争では先の2度の戦役でローマがカルタゴに勝ち、講和を結んで共存共栄と思ったところで、カルタゴが裏切りローマに戦いを仕掛け、3度目の戦いが始まってしまう。これにも勝利したローマは裏切り行為に対して容赦なく、最後はその首都を焼き払いニ度と復活できないように街全体に塩を撒いたほど(諸説あり)。

この戦争で双方に歴史的にも突出した天才が二人出現します。この二人は戦いの天才であると同時に「魅力的な人物」でもありました。

カルタゴの天才「ハンニバル」、ローマの天才「スキピオ」です。

ハンニバル(Hannibal Barca B.C.247-B.C.183)

アレクサンダー大王を学び、幼い頃からローマは潰すべき相手として叩き込まれた。実際に自軍に象兵を組み入れ、全軍率いて極寒のアルプスを超えてイタリア本土へ侵攻してローマ人の度肝を抜くなど、情報を重視した優れた戦略によってローマ軍をけちらし首都ローマに迫り、ローマを壊滅寸前まで追い込んだ。

ローマではこの時の記憶が深く刻まれ「戸口にハンニバルが来ているよ(Hannibal ad portas)」という危機が迫っているときに使う慣用句があるほどです。 

ハンニバルという人は人付き合いはあまり得意ではなく、生涯親友も持たず、妻も娶らず、同僚、兵士とも親しく交わることはなかったといいます。自分にも周囲にも厳しかったが、兵士たちはハンニバルをとても慕っていました。ハンニバルは食事はじめ戦役中はほぼ兵士とともに過ごしながら、一方でハンニバルが片付けなければならないことが山ほどあるため休息や十分な睡眠をとる事もままならないことを兵士たちもよく知っていました。宿営地で寝るのも一般兵士と共に、地面に直に兵士のマント1枚に包まれただけ。日頃の激務を知っている兵士たちは、ハンニバルのそばを通るときはハンニバルの眠りを妨げないように、武器の音など立てないように細心の注意を払ったといいます。こうしてどんな過酷な戦場でも、ハンニバルの兵士は誰一人、離れていくものはいなかったといいます。

 

スキピオ・アフリカヌス(Publius Cornelius Scipio Africanus Major B.C.236-B.C.183)

名門貴族コルネリウス一門の若者で、ハンニバルとは対照的にとても明るく、敵であっても一度会えばその魅力に引き込まれてしまうというほど、爽快な人物だったらしい。青年期からカルタゴにやられっぱなしのローマを見て、特にカンナエの会戦でなぜローマが破れたのか、どうやったらハンニバルに勝てるのか、一生懸命考えた。

そして出てきたその答えは「ハンニバルに勝つには、ハンニバルのごとく戦わなければならない」。スキピオハンニバルの弟子が如くハンニバルを研究し学びました。自ら元老院に直談判し、ローマの全軍を与えられた後はカルタゴ軍に連戦連勝、最後はザマの戦いでハンニバルに勝ち、劣勢だった第2次ポエニ戦役を勝利に導いてしまった。大国カルタゴ相手にローマを大勝利に導いたスキピオ凱旋式を挙行、もともとローマ市民に圧倒的な人気を持っていたスキピオは熱狂的に迎えられました。

 

アレクサンダー大王の弟子であることを公言していたハンニバルは師匠譲りの戦略でローマを壊滅寸前まで追い詰め、密かにハンニバルの弟子となっていたスキピオに、カルタゴのザマの地で破れることになる。

人間的には対照的な二人の天才は、戦いの後同じような運命をたどります。

ハンニバルは、ザマで敗れたとはいえカルタゴの民衆にとっては英雄として国政を任されるが、貴族階級の既得権を突く改革を行おうとして失脚に追い込まれ、カルタゴを離れます。その後に起きたローマとマケドニアの戦争に静かに参加したが、最後はローマ軍にその身を追われ、囚われる前に自刃してその生涯を終えることになります。

スキピオはアフリカヌスの称号を得て、民衆から絶大な支持をうけます。市民はスキピオに終身独裁官の就任を懇願するが、スキピオはこれを辞退する。しかし、スキピオのこの人気をよく思わない元老院大カトーを中心に「スキピオは独裁を狙っている」と嘘の糾弾を続け、いくらスキピオが否定しても、これをしつこく流布して最後は裁判にかけようとした。スキピオはくだらない権力争いに嫌気が差して、政治を引退し地方で隠遁生活を送ります。晩年のスキピオの記録は残っておらず、どのように死んだかもわかっていない。

偶然にもハンニバルスキピオは同じ年B.C.183年に亡くなっています。

ハンニバル64歳、スキピオ53歳でした。

 

英雄、天才、人気者は、それらの能力を持たない既得権者によって邪魔され、追い落とされる。歴史上も現代社会の組織でもよく見られる事象です。その人たちを盛り立てていくことで大勢が幸せになることがわかっていても、結局そんなこと、国や社会のことよりも、要職にありながら嫉妬と自分の既得権に囚われる者がいかに多いことか。

 

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