ポンペイウスがイタリア半島を去った時点で、カエサルは次の地域を手中にしました。
ローマ本国（イタリア半島）、前執政官としての担当地域のイリリア（ユーゴスラヴィアやクロアチア周辺）、ガリア全体、ブリタニア。
ローマ本国を手中にして広大な地域を手に入れてはいるものの、その大半であるガリア、ブリタニアは未開の地でとても裕福な地域とは言い難い。一方でポンペイウスは海賊一掃作戦のころからのギリシア、アジア、アフリカ、スペイン、南フランスを影響下に持ち、とくに南フランスのマルセイユ、ギリシア、アジア、オリエントの各都市は古くから経済が潤って支援母体として頼りになることこの上ない。また、若い頃から海戦で名を上げてきたポンペイウス軍には強大な海軍があることからも、事実上、地中海の制海権はポンペイウスにある。カエサルにとっては、このままポンペイウスと正面衝突では分が悪い。でも、カエサルは慌てることなく、ポンペイウスと戦うに十分な準備を始めることにするのです。
まずは統治機能がなくなってしまった、首都ローマを落ち着かせる。食を確保するためにイタリア本国に隣接するシチリア、サルディーニャを攻略して小麦の供給を安定させる。
次にローマより歴史の古い港湾都市マッシリア（マルセイユ）の攻略に着手します。そしてそのまま西へ軍を進めてイスパニア（スペイン）を手中にし、北アフリカのカルタゴとアドリア海の制海権を抑えてからポンペイウスと直接対決する、というのがカエサルの考えでした。
ポンペイウスから遠く離れた西を攻略するのは「将なき軍団」との戦いであり、数の不利以外に大きな難点はなく、西への征服行は順調に進んだ。
その西方侵攻で唯一大きな危機に陥ったのは「イレルダ / Ilerda(現在のカタルーニャのリェイダ / Lleida)の戦い」。ポンペイウス側の将軍アフラニウスとペトレイウスが守るイレルダの街での攻防戦。もともとポンペイウス配下のイスパニアでの兵糧確保は難しい中、さらに近くを流れるシリコス川の洪水によって、カエサル軍は苦境に立たされる。シリコス川の洪水はカエサル軍団に兵力分断と元々限られている兵糧の遮断をもたらし、このことはポンペイウス軍には歓喜をもたらした。しかしこの状況をカエサルは軍事力ではなく機転によって逆転させる。軍団兵は工兵に変身して何本もの運河を堀る。自軍を苦しめた周囲の洪水を収め、逆に相手の陣営地を運河で分断させた。ポンペイウス軍とイレルダの街兵糧補給を遮断し、孤立させることで形成をひっくり返し、イレルダの無血開城を勝ち取った。
この時もカエサルは降伏の意を示してきた敵軍兵士の命には触れずに自由を与え、当然のように街の略奪も兵士たちには許さず、将軍二人の去就も自由を与えたのでした。
その後カエサルの軍団が近づくだけで、ポンペイウス軍は降伏し、ほぼ無血開城によりイスパニアの街はカエサルに恭順を示し、イスパニアにあった7つのポンペイウスの軍団は全て解散。イスパニアはカエサルの勢力下となったのでした。
もともと直近のガリアでの8年の戦功は「ガリア戦記」でローマ中を熱狂させていたし、ルビコンを渡った後の、敵に対して見せるカエサルの寛容さはすでに衆目の知るところとなっていた。そんな状態のところにカエサル軍の強さと機転を目の当たりにすれば、イスパニアのポンペイウスの軍団兵たちには「何が得か」判断には迷う必要はなかったでしょう。
そして降伏した相手に対して、民衆の期待通りにカエサルは許した。
カエサルは「イレルダの戦い」の終わりに、ポンペイウス側の将軍との公開会談を設定して、敵味方の軍団兵の末端にまでもわかるように言いました。
同胞であるローマ人を相手に戦うことは決して本意ではないこと、話し合いで解決したいが元老院派の首脳陣が憎悪に駆られてそれを許さないこと、その結果、必要のない戦いによって同胞の命が無駄に失われていること、この現実を元老院派の首脳は理解していないこと。
この時もカエサルは剣を交えることなく、交渉によってこの内戦を終わらせることを諦めていませんでした。
ポンペイウスは、あっさりとローマを去りながらも自分の勢力下にあるイスパニアとオリエント、エジプトの三方からカエサルを挟み撃ちにするというのが戦略のつもりだった。しかし、ローマ西側のポンペイウス勢力圏は、あっさりとカエサルの下に組み替えられ、ポンペイウスの戦略は水泡となった。
一方、
カエサルは、南仏〜スペイン手中にしたが、護民官クリオに任せたカルタゴの攻略は失敗に、また同じくアントニウスに任せたアドリア海の制海権奪取も失敗に終わり、当初の戦略通りとはいかない状態。準備万端とは言えないもののカエサルは次のステップへ進むことを選択する。
カエサルと軍団はギリシアへの港街ブリンディシに向かい、いよいよポンペイウスとの直接対決を仕掛けることになります。
