cafe mare nostrum

旅行の記憶と何気ない日常を

アルルの小話 〜夕食にて

f:id:fukarinka:20200414182043j:plainアルルでの最初の夜、私は暗くなった街を歩き夕食をとれる場所を探していた。

ゴッホが有名な街だけにアルルにはあちらこちらにゴッホの名前を付けたレストラン、カフェ、ホテル等、"○○・ファン・ゴッホ"というのが多い。

まず目に付いたのは"レストラン・ファン・ゴッホ"。ホテル・ファン・ゴッホに泊まり、レストラン・ファン・ゴッホで夕食と行きたいところだったのだけど、ここは満席だったので明日また来てみよう。そしてしばらく街をぐるぐる回った後に何度目かに通ったフォーラム広場に面したところに、安くて美味しそうなレストランを見つけた。

私は外に出ているメニューを眺めながら、ふと店の中に目をやったとき、ガタイの良いウェイターが満面に笑み(やや営業笑い)を浮かべて手招きしているのに気づいた。私は思わず笑ってしまい、ウェイターが手招きするまま吸い込まれるように中に入っていった。


席に座るとさっきのウェイターがメニューを持ってきてくれた。フランス語のメニューだったので、英語のメニューはないか訪ねると、彼は英語がわからない。でもわからなくてもこのシチュエーションは通じるもので、彼は困った表情で両手を開く身振りで"non"と答えた。さあてどうしたものかと考えてると間もなく、ウェイターはメニューのある部分を指さし、両手の人差し指を頭にのせて角にしたかと思うと"モーモー!"と鳴き出した。"ビーフか!"と私がOKとサインを出すと、次を指さしながら今度は"ブーブー"、次は"コケコッコー"といった具合にメニューの端から端までこんな調子で身振りと音で説明(?)を受けた。おかげで食べたいものがオーダーできた。


料理が来るのを待つ間もそのウェイターは時々私の所にやってきては何かしらちょっかいを出してくる。元気か?とかアルルの街はどうだ?(想像)とか、時々訳の分からない日本語もどきで声をかけてきたりと、お陰で料理が来るまで私は退屈しなかった。

そして彼が"Bon appetit ! (ボナペティ)"と料理を持ってきてた後、私が食べている間中も相変わらずちょこちょこ現れては"うまいか?"とか聞いてくる。私は退屈しのぎにちょうど良かったが、これが常だと鬱陶しがる人もるだろうな。それほど頻繁に彼は私のテーブルに訪れたのだった。私はそのウェイターの"サービス"に満足して、チップを少し多めに置いて帰った。とても楽しく食事ができた。


旅行先での自由気ままが好きでいつも一人旅をしていた。当然食事も一人なのだが、一人の食事はやはりどうも味気ない。土地の名物料理は複数でないと食べられないものもあったり、誰かとその日にあった出来事やその料理についていろいろ話をしながら食べる方がずっと楽しいだろう、といつも思った。食事は一人旅の唯一と言っていい欠点だ。

しかしこの日はレストランにいる間中退屈せずにすんだ、一人ではあったが楽しい食事だった。

 

 

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