アルルでの最初の夜、僕は暗くなった街を歩き夕食をとれる場所を探していた。ゴッホが有名な街だけにアルルにはあちらこちらにゴッホの名前を付けたレストラン、カフェ、ホテル等、"○○・ファン・ゴッホ"というのが多い。
まず目に付いたのは"レストラン・ファン・ゴッホ"。ホテル・ファン・ゴッホに泊まり、レストラン・ファン・ゴッホで夕食と行きたいところだったのだけど、ここは満席だったので明日また来てみることにする。そしてしばらく街をぐるぐる回った後に何度目かに通ったフォーラム広場に面したところに、安くて美味しそうなレストランを見つけた。僕は外に出ているメニューを眺めながら、ふと店の中に目をやったとき、やたらガタイの良いウェイターが満面に笑み(やや営業笑い)を浮かべて手招きしているのに僕は気づいた。僕は思わず笑ってしまい、ウェイターが手招きするまま吸い込まれるように中に入っていきました。
席に座るとさっきのウェイターがスキップしながらメニューを持ってきてくれた。フランス語のメニューだったので、英語のメニューはないかと英語で訪ねてみたが、彼は英語がわからない。でも言葉わからなくても、このシチュエーションなら意思は通じる。彼は困った表情で両手を開いて肩を窄めて"non"と答えた。さあて、どうしたものかと考えてると、すぐに彼はメニューのある部分を指さし、次に両手の人差し指を頭にのせて角にしたかと思うと「モーモー」と鳴き出した。「ビーフか!と僕がOKとサインを出すと、彼は次のメニューを指さしながら今度は「ブーブー」、次は「コケコッコー」といった具合にメニューの端から端までこんな調子で身振りと音で説明(?)してくれた。そのおかげで、ほとんど意味不明だったフランス語のメニューの中身がわかり、食べたいものがオーダーできました。
料理を待つ間もそのウェイターは時々私の所にやってきては何かしらちょっかいを出してくる。元気か?とかアルルの街はどうだ?(想像)とか、時々訳の分からない日本語もどきで声をかけてきたりと、お陰で料理が来るまでの間も退屈しなかった。
そして彼が「Bon appetit ! (ボナペティ)」と料理を持ってきてた後、僕が食べている間中も、相変わらずちょこちょこ現れては「うまいか?」とか聞いてくる。僕は退屈しのぎにちょうど良かったけど、これが常だと鬱陶しいと思う人もるだろう。それほど頻繁に彼は僕のテーブルを訪れたのでした。食事を終えると、僕はそのウェイターのサービス(?)に満足して、チップを少し多めに置いて帰りました。
旅行先での自由気ままが好きなので一人旅が常でした。当然食事も一人なのだけど、一人の食事はやはりどうも味気ないと感じる時があります。土地の名物料理は複数人でないと食べられないものもある。誰かとその日にあった出来事やその料理についていろいろ話をしながら食べる方が楽しいこともあるだろう。食事は一人旅の唯一と言っていい欠点といえます。しかしこの日はレストランにいる間中、退屈することはありませんでした。一人ではあったけどとても楽しい食事でした。