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シエナ 2 世界で一番美しい広場

f:id:fukarinka:20210919210211j:plainカンポ広場(Il Campo / Piazza del Campo) 

シエナの路地を歩いてゆくと、突然ひょろ高い塔が現れ開かれた空間が広がります。

「世界でもっとも美しい」とされるカンポ広場です。

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広場正面には、ちょっとコミカルな印象を受けるマンジャの塔(Torre del Mangia)、その右にやたら渋いファサードを持つシエナ市庁舎(プッブリコ宮殿 Palazzo Pubblico)、このふたつをカナメとして扇状に広がる空間を中世の渋い建物が囲む、確かにとても美しい広場です。

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1347年、シエナは都市としての最盛期を迎え、この広場は完成しました。

シエナ市民は3つの丘が交わるここに「理想的な広場」としてカンポ広場を建設しました。

*プッブリコ宮殿を背に扇の右を眺める。

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*同じく左を眺める。

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3つの丘の交わるちょっと窪んだ場所に造られた広場は、ちょうど帆立の貝殻をひっくりかえしたような形です。カナメに向かって落ち込むすり鉢状の床面は、ギリシアの半円形劇場も思い浮かべます。正面のプッブリコ宮殿と横にそびえるマンジャの塔ともに、ぐるりと一周取り囲む13世紀の柔らかい建物群は「何かに守られている」ようなとても不思議な安心感を与えてくれます。

 

そして広場の煉瓦の床を放射状に9つに区切るように走る線がある。これはシエナ最盛期をもたらしたゴヴェルノ・ディ・ノーヴェ(Governo dei nove)を表しています。

f:id:fukarinka:20211123223420j:plainゴヴェルノ・ディ・ノーヴェとはシエナ独自の統治システムとして1287年にスタートしました。これは優れたビジネスセンスをもって市民と共和国と自分のために考え、働くことができる「普通の人」九人が選ばれシエナ共和国を統治する、というもの。九人は職人や商人といったいわゆる中産階級の人たちが担い、実際にシエナに善政をもたらし全盛に導いたのでした。

この頃に今に伝わる美しいシエナの街が出来上がり、またこの頃に完成したのがここ「カンポ広場」。この広場の床が白い(灰色)の線で9つに区切られているのはゴヴェルノ・ディ・ノーヴェの九人を表しているため。この統治システムの考え方は「民衆や都市の代表は市民、その利益を受ける中心も市民」という考え方であり、「君主制」と呼ばれる考え方は13世紀のこの時代に、すでにシエナからなくなったといいます。

 

この広場には地元人、観光客とわず多くの人がく寛ぎに来ます。そう寛ぎに来るんです。

微妙な傾斜はゆっくり腰を落ち着かせることができ、やがて寝っ転がるのに最適。なので座って寝っ転がるのが基本。また、赤煉瓦の床は不思議なくらい柔らかく赤ちゃんがはいはいしても大丈夫。

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ひろばを眺めて立っていると、微妙な傾斜によってかかる足首へのテンションと、さらに煉瓦の床が「ちょっと座ってみたら?」と手招きしてるような錯覚に負けて腰を下ろすことになります。

この時点で気が付くんです「ここまでリラックスできる広場がほかにあっただろうか?」と。

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多くの広場はフラットな場所に段差や柵、ちょっとした階段があってそこにみんな腰を下ろす(まあベンチという場合もありますが)。ここは床に直接腰を下ろす。そして寝っ転がる。

カンポ広場とはそういう場所でした。

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*鳩はヴェネツィアサンマルコ広場ほどはいませんが、やはり広場に鳩はつきものです。

 

カンポ広場を囲む建物は、決して豪華ではなく、煌びやかでもない。豪華絢爛でないことが逆にひとつ安らぎにつながっているのかもしれません。厳密に様式が同じわけでもないのだけど、なんかリズムを感じる。個々の色合いや様式からは芸術性を感じる。それは芸術作品として強烈なアピールではなくて、途轍もないさりげなさから生まれるもの、そこには強烈なセンスがつまっているんです。ゴヴェルノ・ディ・ノーヴァで善政と全盛を実現した幾人もの「九人」の「自分達の街への想い」。「何かに守られている」ようなとても不思議な安心感の理由はここにあったようです。

 

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